調達魂

~日々奮闘する資材調達・購買バイヤーに贈る言葉~

仕事が「依頼されたことだけ」になっていませんか?

調達業務は日常の納期調整や、価格折衝というイベントに向けてそれぞれの材料の注文量や品質とか自社と取引先様の状況や更に市場や市況の動向の情報収集など多様ですね。

確かに忙しいと思いますが、これらは「調達のお仕事」としてルーチンワーク化していると言え、こうした業務をこなすだけの日常になっていませんか?

これでは面白くありません。

調達担当者は社外からの売り込みに対応する第一窓口

私は新規取引先であろうが既存取引先であろうが、こうした売り込みは積極的に面談して話を聞くようにしています。

しかし、玉石混交とはこのことで、ほとんどの話は私に取っては石コロで、「ほう~」というような価値ある話が聞けるのは稀なことです。

それでもこうした価値ある情報を得る確率が例え100回の内1回としても面談を続ける価値は十分にあると思っています。
しかし、その仕入れた情報を何か社内ニーズがあった際に役立たせるそれだけであれば「待ちの姿勢」になってしまいますね。

ですから別の稿で書いた「産廃の再利用の検討」のように社内の問題を日頃から認識しておくことで、どこの会社に何をしてもらうことで何ができる、という提案をこちらから具体的に行うことを常に狙っているのです。

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もう一つ事例を紹介しますね。

「設備の定期点検を延期する」って、おかしくないですか

設備の定期点検は一般に半年に1度とか1年に1度の頻度でゴールデンウイークや盆休み年末年始などの連休のタイミング実施されますね。

いつも事前に計画し実施されますが「足元の受注残に対応するため定期点検を延期する」ということが何度もありました。

定期点検というのは製造設備の安定稼働を担保するために行うものですが、簡単に延期をしても良いのでしょうか?

実際は「転ばぬ先の杖」的な意味で「今、点検をせねばならない」という確かな根拠などない訳ですが、これに対して私は何とか「今、点検する必要がある」という明確な根拠を見出す技術はないものかと漠然と考えていました。

こうした中である時、日本を代表する大手の電機メーカーである取引先様から
「電力会社の発電プラントにセンサーを張り巡らし、全プロセスの中での”ゆらぎ”を検知することで故障を予知する」という技術の紹介がありました。

今はこうしたIoTによる予知保全の発想は良く聞きますが、この話は後にIoT元年と言われる2015年当時の話で、まだ一般的には「何それ?」という時代です。

この時は、まさにこのような荒唐無稽な話を持ちかける相手になってもらうために取引先様から私たちの会社に迎え入れた、と別の稿で紹介した方が別の事業部で品質保証部門の管理部長の立場であったため渡りに船とばかりにこの話を持って行きました。

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この品質保証の管理部長は私からの提案を快諾し、取引先様からのプレゼンテーションを実施しました。

驚いたのは、この部長も「予知保全」の検討を開始しており、既に1年分以上のセンサーデータの蓄積があるためすぐにシミュレーションが可能で、これまで検討を進めてきた別の業者と比べ仕様や価格でよりベターな提案があれば是非検討したいという状況でした。

この結果は、検討を進めていた別の業者に比べ私の提案した取引先様の提示価格はかなり高額であったことや対応のスピード感にも問題があり、こちらは立ち消えになりました。

 さすが、私が引っ張った人、という思いと、みんな考えることは同じ、というのが率直な感想でした。

それでも「こんなことができたらいいなぁ」と思うことと「この取引先様ならこんな事ができる」と具体的に紹介ができることは雲泥の差です。

繰り返しになりますが、こうすることで仕事の範囲が広がり、俄然面白くなります。

と言う訳で、今も狙っていることがいくつかあります。

 

「え?そんなものまで」を調達する

私が調達業務をする上での基本方針は

「調達業務を通じて自社の企業競争力の維持・向上を図る」

というもので、これには 何を調達するか という枠は一切設けていません。

 

 その中で、私がよく他の方々に自慢げにお話するのは「人を調達した」ことです。

「人を調達」では人身売買みたいで人聞きがよくない表現ですので「人をスカウトした」と言い換えますね。

あの当時は、一緒に仕事をしていた品質保証の課長さんがよく「ウチの品質保証部門には人材がいない」とボヤいていました。
その方も社内の他の方々から「あの人はチョット」と言われており、多分ご本人もそれを知った上で「人材がいない」と自分の組織を採点していたのだと思っています。

そうした中で、私たちの会社の製品の表面処理をお願いしている外資系の取引先様が事業戦略の見直しにより日本のある大手企業に売却されることになりました。

この取引先様は社員数50名程度の企業でしたが外資系ということもあり開発・生産技術・品質保証それぞれ1名づつ「できる人」の責任者がいました。

特に品質保証の責任者は品質工学の専門家で度重なる品質打合せの中で、例えば
「この表面処理の歩留りが悪かったLotは、元になる貴社の部品Lotに〇〇の傾向があったのではないでしょうか?」
というような指摘をされることがあり、
「こちらから情報開示してないのに何でそこまで考察できるんだ?スゲ~な」
と品質保証課長だけでなく、製造部門のメンバーからも評価の高い方でした。

そこで、その取引先様の企業譲渡で一旦解雇されるその機会に私から品質保証の課長に
「あの方をウチに引っ張ろう」と持ちかけたのです。

品質保証課長は早速「ウチには人材がいない」とやはり悩んでいた上長の品質保証部長に話を持ちかけ「ぜひ、よろしくお願いしたい」というコメントを引き出してきました。

ここまで準備を整えた上で初めて私から相手先ご本人に
「私たちは貴方を弊社に是非お迎えしたいと考えています。」
と電子メールしたのです。

 

その後、この話はトントン拍子に進み、初出勤日の朝は製造部門のメンバーも集まって
我が社へようこそ!」とこの方をお迎えした日のことは今もよく覚えています。

この話は今から10年以上前のことですが、その後この方は私の目論見通り順調に昇進し今では品質保証の統括部長になっています。

この方は肩書が重くなっても仕事に対しては相変わらずヒタムキで、今でも私からの荒唐無稽?な提案もキチンと受け止めてくれます。

実は、このような私からの提案をキチンと受け止めてくれる然るべき立場の人を得ることが「私の目論見」だったのですが、それにまつわる話はまた別の稿で。

 競合他社の製品をサンプルとして入手したい

調達の仕事をしている方々の中には「私の方がもっとユニークな経験をした」という方も多いと思いますが、ここでは私の他の「え?そんなものを」という経験を紹介しますね。

研究開発の検討の中では開発中の試作品と競合することが予想される既存の他社品を比較するために入手したいという依頼がけっこうあります。

今はネットで簡単に購入できますが、アマゾンやモノタロウで購入できる汎用上市品ではない場合は、メーカーや特定の商社のネットのページにアクセスする必要があります。

しかし、こうした場合は競合品の開発を検討している自社が購入したという痕跡はどこにも残したくない訳ですから、このような案件に日頃から対応をお願いしている既存取引様の商社に代理購入を依頼します。

それでも建築業界向け製品の場合は明らかに畑違いの商社からの購入要望では奇異な感じを持たれてしまう可能性があるため、工場建屋の補修・改造でいつもお世話になっている取引先様に事情を説明して代理購入をお願いしています。

更に一風変わった依頼

こうした中で、ある自動車メーカーの特定車種のフロントウィンドウとリアウィンドウを入手できないか、という依頼がありました。

この時はさすがに少し悩みましたね。

で、結局思い付いたのは社有車のメンテナンスをいつもお願いしている自動車修理工場を総務部門から紹介してもらい、そこを通じて発注し、目的のものを難なく入手しました。

調達で業務をする中で通常では発生しない「妙なもの」の入手依頼に対応することはなかなか面白く「調達できないモノはない」と豪語したいのですが、韓国の現地しか販売していない製品とか、数億円もするような装置の専用の消耗品とか「無理です」と白旗を上げた経験は何度もあります。

でも、どんな時でも簡単にはギブアップしないゾ~

 

新規に事務所や実験室のレイアウトを検討・決定する手順

「イノベーティブで創造的な空間を構築する」というようなお題目で多くの企業が新しく事務所や研究室を建設したりリフォームしたりしていますね。

こうした時は対象の空間を具体的にどうデザインしレイアウトするか、検討するチームを社内で立ち上げることが多いと思います。

しかし、このチームの知見だけでは具体的デザイン・レイアウトをゼロから立案するのは雲を掴むような話ですので、まず無理でしょう。

そこで、こうしたことに何の経験もないリーダーは、数年前にお世話になったとか、今の事務所の実績とか、とにかく何らかのツテで特定のオフィスファニチャーメーカーとか専門商社に相談して、感触が良ければそのまま最終仕様の決定までした後に
「調達さん、これを発注したいので価格折衝をお願いします」
と言って依頼をして来るケースが多いのではないでしょうか。

これではダメです。

このような場合は「〇〇取締役の了解も得ている」という根拠を付けてくるケースもありますが、こうした検討に何のノウハウも持たない役員の判断など関係ありません。
しかし、検討がそこまで行った状態で調達部門として「ちゃぶ台返し」してしまうと話が紛糾してしまいますので、検討の初期段階で手順・考え方をキチンと協議・整理しておくようにしています。

「何故これを選んだのか」を社内外に説明できる検討をするために

調達の業務として「良いもの」を「安く」買うということがありますが、1社だけに相談した検討では悪くはないでしょうが比較できるものがなく、何を持って「良いもの」と判断したのか社内外の第三者に説明できません。

検討チームのメンバーも、もっと高いレベルでの検討を望むはずです。

そこで、私が提案する検討のステップは

  1. 競合プレゼンテーションを実施する。
  2. その結果から発注先をどの業者にするかを決定する。
  3. 決定した業者と詳細な仕様・数量を協議して最終仕様を決定する。
  4. その最終仕様にもとずき調達部門は価格折衝を行い発注する。

という流れです。

「競合プレゼンテーション」に向けた準備

取引先様にプレゼンテーションを依頼する時には諸条件を提示する必要があります。

1、コンセプトの策定を依頼

一般論で書くと「革新的で」「地球にやさしく」「働きやすい」とか流行語のオンパレードになってしまいますが、個別の企業が具体的な言葉に落とし込むとそれなりに独自の内容になると思います。

しかし、あくまでコンセプトですので内容はやはりフワっとしたものになるでしょうね。

一般にコンセプトの策定は社内コンセンサスを得る必要もあるために一番時間がかかりますので早めに着手を依頼します。

2、対象空間の諸元の情報の取りまとめ

空間の場所・大きさや執務する予定人員とか会議室の大きさと数、更に電源コンセントの位置・数や天井梁の位置など。

3、プレゼンテーションをお願いする取引先様の選定

私たちの会社は日本の大手メーカー様と直接取引がありますので直接依頼しますが、専門商社様からは「各社のいいとこ取り」をした提案をいただける可能性があります。

だいたい私たちの会社では3社~4社の取引先様に依頼をしています。

4、結果の判定基準の決定

あり得るパターンとして

  • 検討グループ内で協議して決定する。
  • 対象の場所で執務予定の各グループメンバーに採点表を配布して合計する。
  • 担当役員の「鶴の一声」

この内容によってプレゼンテーションを聴く必須の出席者が決まり、それを踏まえて日程の調整がようやくできることになります。

「競合プレゼンテーション」の実施

プレゼンテーションの内容は投資予定の金額によって変わってきますが、1億円レベルになると取引先様の気合いの入れ方は相当なものになります。

提示されるパース(完成予想図)には椅子・机だけでなく、提示したコンセプトを踏まえて壁の配色や床の色分けばかりでなく、「柱にニュートンのこの言葉を書きましょう」みたいなことまで提案いただく場合もあり、世の中の最新の動向や各社各様の新製品などを織り交ぜた提案を聴くことができますので非常に刺激的です。

何しろ、今の時代の大手オフィスファニチャーメーカー様はこうした「空間プロデュース」にかなり注力していますので絶対に聴き応えがあります。

実は、こうした大手メーカー様の渾身のプレゼンテーションを聴かずに特定の取引先様と最終仕様まで決めてしまうのはとてももったいないことだと私は考えているのです。

発注先の決定

プレゼンテーションが終るとあらかじめ決めていた判断基準により発注先を決定します。

この決定理由については十分ヒヤリングして理解するようにします。

何故なら、選定されなかった取引先様に対して私たち調達から結果の連絡と理由の説明をする必要があるからです。

この時、もう一つ注意が必要なのは、こうした場合の理由は明確に言い切れることは少なく、実態としては「何となく」という感じが多いと思います。
しかし、その取引先様がその後会う人ごとに違う理由で説明されると混乱を招きますので社内で理由をキチンと言葉に落として申し合せておくことをお勧めします。

そして最終仕様の決定へ

ここまでは対象空間のデザイン・レイアウトを検討するためのパートナー選びの段階に過ぎませんが、この段階では関係者の間でイメージの共有がかなり進みプレゼンテーションで落選した取引先様の提案なども無意識の内に参考にして検討できるようになちます。

さて、ここからはこれまでの資料や考え方を叩き台にして最終の仕様・数量を決めていくことになります。

この中にはロッカーやホワイトボード、ゴミ箱・傘立てや下駄箱なども入ってきます。

そうして、ようやくまとまった最終仕様・数量の見積に対して私たち調達部門は価格折衝を行います。


しかし、「最終仕様」と言っても、その後でも細かな変更は良くあることです。

これに対しては、これまでの経験では1回では済まず数回繰り返されるため、時機を見て一括して改めて簡略した価格折衝を実施した上で注文書を差し替えるようにしています。

 

「価格折衝」でも「品質打合せ」でも3手先を準備する

詰将棋には1手詰から長いものだと江戸時代の「将棋無双」には何と225手詰というものまであります。

しかし、交渉事では相手先がどんな対応をするかの予測は一問一答くらいまでで、その先の問答を予測するには可能性が広すぎるため、私は現実的な対応として3手先まで考えるようにしています。

この場合の3手先とは

私たちから取引先様に「これでお願いしたい」との申し入れることが1手目
これに対し、取引様から「承知しました」という場合は、この1手で交渉終了。

そうではなく、取引様から「いや、それは〇〇の理由で対応は厳しいです」という説明があった場合は、それが2手目

その説明に対して例えば「その理由であれば規格値の緩和を協議する準備がある」などと切り返すのが3手目

つまり、自社からのお願いに対する取引先様の反応に面談席上で臨機応変(場当たり的)に対応するのではなく、あらかじめ何通りかの反応を予想し、予想したそれぞれの反応に対してあらかじめ対応を準備しておくのです。

設備案件の価格折衝の場合は

一般的に「見積評価」をした上で事前に落としどころの金額を社内に説明し、了解を得て「弊社も事業環境が厳しいため精一杯の価格協力をお願いします」などと言って価格折衝を開始しますね。

この価格協力のお願いに対する取引先様の回答金額をあらかじめ予想しておく訳です。

取引頻度の高い取引先様の場合、この時の回答金額はある程度予想ができますが、新規の取引先様の場合はあらかじめ何通りかの反応を予想しておきます。

私個人は、こうした設備案件で一番価格に影響するのは「やってみなければわからない」というリスクを取引先様がどの程度感じているか、ではないかと思っています。

ですから生産技術部門の担当者にあらかじめ対象案件についてリスクの項目とその大きさをヒヤリングし、価格折衝の席上で取引先様と協議できるようにしておきます。

例えば
私たちからの「価格協力のお願い」に対する取引先様からの回答金額に対して私の方から「今回は実績豊富な貴社にお願いしたいと考えてますが、それにしては設計工数が随分多い印象です。ここを見直していただけませんか」など、3手目を準備しておくのです。

これに対する取引先様からの説明がどうであれ、生産技術部門の担当者は疑問がある程度解消し決着金額に対する納得性が高くなり、またそれが初号機の場合には2号機ではそうした設計費用はかからないのか、ということなどを席上で確認することもできます。

品質打合せの場合

突発的な品質トラブルではなく、通常の品質・歩留りの向上を目的とする打合せでは取引先様からの説明はあらかじめ十分予想がつきます。

これに対し「月例打合せだから」と言って何の準備もなく打合せに臨むと席上で皆が腕を組んで「う~ん、どうしましょう」などと行き詰まってしまうこと必至です。

設備案件の価格折衝の場合は必ず何らかの形で価格決着することができますが、膠着した品質について状況を打開するためには「では、また来月まで両社の宿題ということで」という訳にはいきません。

そんなことをしていたら、その分だけその製品の死期が早まってしまうのですから。

 

コーチング論の要諦の中に「答えはアナタの心の中にある」というのがあるそうです。

私は品質向上のための答え(=対応策)は取引先様の社内にあると考えています、
そのためには「1+1=2」という論理的な議論の前に取引先様内部の品質向上に対する熱意が絶対に必要だと思っています。

ですから、このブログの別の稿で書いたように何とか取引先様の現場やトップに従来より格段に熱意を持ってもらえるよう、メーカーとしてのプライドや企業としての業容拡大などの切り口をなんとか見出して働きかけるようにしています。

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そう言えば、ある品質向上に苦労していた材料について、私から取引先様の現場の方々に
「この材料はドイツの〇〇社製自動車に搭載されるカーナビに使用されることになった」
と説明したところ
「え~、それじゃ今の品質水準で精一杯などと言ってられない」
と、現場の方々が異様に燃えてくださり、改善活動が軌道に乗ったことがありました。

 

「購入品質仕様書」制定に向けて

画期的な新製品を開発しました!と言ってスグに製品を販売できる訳はありませんよね。

同じ製品でも繰り返し製造すると特性や機能など品質に必ずバラツキが出ます。
そして、お客様からお金をいただくのであれば、そのバラツキがどこまでOKで、どこからがNGかをキチンと線引きをする必要があります。

そのOK・NG判断の線引きは販売するお客様が一般の消費者であれば各種法令を踏まえた上で自社で決定する必要がありますが、何かの最終製品に組み込まれる部品や部材であれば、そのお客様との間で「納入品質仕様書」を締結します。

この「納入品質仕様書」の締結に向けて自社製品の製造に使用する材料については個々に私たちの会社と取引先様の間で「購入品質仕様書」を締結します。

 製品開発のゴールは、それまでの試作品という位置づけではなく、この仕様書にもとずく製品をお客様に納め、その対価としてお金をいただくこと、とも言えます。

 難しい規格値の上限値と下限値の見極め

研究開発の段階では「できた!」の次は「再現できた!」となり、それ以降は歩留り向上への闘いとなっていきます。

しかし、もうこの歩留りを議論する瞬間には何を持って合格とするかの判断基準を持っておく必要がある訳です。

ですから、取引先様から提供いただく材料についても再現できた次のLotからは品質水準が同一のものばかりでなく、ある程度振れ幅のあるものを使用して製品特性がどのようになるかをあらかじめ確認しておきたいものですが、実際はこれがなかなか難しい。

対象材料を製造する取引先様であれば、生産実績から仕様書の規格値の上限・下限を提案いただくことはできますが、その提案の可否を判断するには実際にその値の材料を使用した試作品の評価をしたいところです。

しかし、そもそもそんな上限値や下限値の材料を狙って製造できるなら品質のバラツキはもっと狭いはずですものね。

という訳で、実際には少量試作から量産試作に至るまで試作の回数を重ねる中で、各種の異なる生産Lotの材料を使用する中で評価データーを積み重ねて行くこととなります。

実際には仕様書制定をゴールとした時に徒に試作の回数を増やしてもスピード感に欠けますし、結局はどこかで「腹をくくる」必要がありますので、私たちの会社では
「対象材料を最低3Lot分自社の製品に組み込み試作評価し、いずれも合格であれば3Lotの標準偏差σを計算し、その3倍(=3σ)の値をそれぞれ上限及び下限とする」
という運用をしています。

開発の初期段階から材料特性と製品特性データーの蓄積を

それでも「さあ仕様書制定に向け規格を検討しよう」という段階になってもこうした目的でのデーターの準備が不十分で、わざわざその目的のために試作を実施する、などといういわゆる手戻りが発生してしまうことがあります。

調達担当者としてはこうした製品化の道筋をキチンと理解して社内の開発部門や取引先様にムダな行為が発生しないよう、気配り・目配りをしたいものです。

安定供給に大きなリスクはないか

そういえば、私が引き継いだある樹脂製の粒子で、私たちの会社向けの専用材料ではないのですが、メーカー様の標準仕様では粒径の規格値が±10%に対し私たちの会社が締結した購入仕様書では+10%、-0%という規格の材料がありました。

この背景は粒径がマイナス目のLotを使用して私たちの製品を作ると、その製品の規格値を満たさない、または歩留りを大きく落としてしまう、というものでした。

この規格値に対しメーカー様は狙って作れる訳ではなく、この材料に関して他のお客様が何社もある中で私たちの会社は「粒径がプラス目のものだけが使用できる」つまり「粒径がプラス目のものだけを購入する」がというものでした。

極端に言うと私たちの会社で使用できる規格の材料が製造できる確率は50%ということです。

確率50%ということはバクチで言えば「丁」か「半」かということですね。

私たちが「丁」を待っているのに直近のLotが「半」だったとすると、次は「丁」が出るのでしょうか?

「丁」の次は必ず「半」が出るならバクチではありませんね。
1回前の出目があ何であれ、次の目は常に確率50%ですので、「半」が連続10回出ることもあり得るのです。

ですから、内示をして確保する在庫はいくらあっても安心などできませんでした。

しかし、無限に材料を確保する訳には行きませんので、実務上は3Lot分(=半年分)を目安に材料確保しました。

それでも、一時「在庫はあと1Lot分しかない」ところまで追い詰められた時はさすがにドキドキしました。

 

ユニークな特性・機能を持つ新製品を開発することは大切なことです。

しかし、製品化した瞬間から「供給責任」が発生します。
ですから、入手に不安のある材料を使用するのは避けるよう調達部門として開発段階から警告、場合によってはダメ出しをするくらいの気概を持ちましょう。

 

 

原油やナフサの価格上昇による値上げ打ち出しへの一つの対応

取引先様から値上げの打ち出しを受ける場合に良くある理由として原油やナフサの価格が上昇し、このコストupを内部で吸収しきれないため「やむを得ず」価格改定をお願いする、という言い方が多いと思います。

そして、こうした場合に取引先様からのお願い書面と一緒に提示される資料として

直近3カ月のナフサ価格の推移 ※これは一般的な模式図です。

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こんなグラフの資料を提示されることが多いですね。

そして例えば
「現状では+10%くらいの値上げをお願いしたいところですが、できるだけ社内努力で吸収して、貴社には+5%の値上げを何とかお願いしたいのです。」
というような説明がなされますね。

一般にこうした場合の値上げの打ち出し価格は

  

ところで、この「打ち出し価格」という表現は原油にまつわる価格の話をする時の独特の表現でしょうか?ほかでは聞いたことがありませんが知っているととても便利です。
もう一つ、この打ち出し価格に対し「高い!」などと言うと「それでは貴社のお見立てはどれくらいでしょうか?」などという会話となってきます。

この「打ち出し」と「見立て」という言葉は商談に臨む上でのボキャブラリーに加えるととても便利です。

 

で、一般にこうした場合の値上げの打ち出し価格は、原油やナフサの価格が対象品の製造原価に対する比率はそれほど大きくありませんので、+20%とか+30%とかの大幅な値上げ打ち出しであることはあまりありません。

しかし、対象材料の原価構成の情報を得る貴重な機会ですので、その目的を頭に刻み良くヒヤリングします。

原油・ナフサの価格と購入単価の推移を長~い期間で確認する

先に「+5%値上げの打ち出し」と記述しましたが、取引先様は「弊社の打ち出し価格は5%upです。」とは言いません。
なぜなら「打ち出し」とは、そこを起点として両社で折り合える価格を協議する、というニュアンスですので、それでは最初からその価格では無理と認めることになりますから、あくまで私たち調達側での言い方になります。

という訳で、私たち調達は取引様の打ち出し価格をそのまま承諾できませんので、普通は値上げの「阻止」「延期」「値上げ幅の圧縮」という3段階で抵抗します。

しかし、3段階といっても実際は「弊社も同様に厳しいので、そこを何とか少しでも」とか、競合購買している取引先様を活用した牽制などを駆使する感じですね。

こうした中で、私は以前下のような資料を作成しました。

3年分のナフサ価格と購入価格の推移 ※これも一般的な模式図です。

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いかがでしょうか?

単純に購入単価の改定履歴とナフサ価格の変動を一つの図にまとめたものものです。
約2年半くらい前にナフサ価格の上昇により購入単価upの対応をしていますが、その後ナフサ価格が下落したにもかかわらず、私たち自身のチェック漏れ(業務怠慢?)により価格見直しをしていなかったことがわかります。

一方、今回の取引先様の値上げ打ち出しに対しては上記資料「B」部分のナフサ価格下落時に取引先様は相応の利益を享受したように見えます。

とにかく、取引先様が自分たちに都合の良い期間の資料にもとずく説明をするなら、私たちも期間を3年でも5年でも10年でもこちらに都合の良い期間での資料を作成して対抗するのです。

実際、この時私は取引先様にに対して
「現状のナフサ価格の上昇傾向は明日以降どうなるか不明で下落に転じる可能性もある。一方、実績として現在の購入単価の値上げに応じた時点のナフサ価格を下回る期間が長期に及んでいるため、むしろこれを遡及して値下げ対応の依頼をしたいくらいだ。
しかし、それが難しいなら、せめて現状の高水準のナフサ価格が現在の購入単価の水準を下回った期間に見合う期間が経過するまで価格改定の協議には応じられない。」
とコメントしたところ、それ以降は値上げについて何の話もありませんでした。

それでも「値上げ」を言い値で承諾した時

このように調達担当者として購入単価の値上げには激しく抵抗し、時には逆に「金返せ」と言うことがあるくらい、ああ言えばこう言う、の世界です。

しかし、そうした中で印象に残っているのは「ダンボールの値上げ」の対応です。

ダンボールの値上げの打ち出しは決まって「全国段ボール工業組合連合会」の名前で
ダンボール業界の事業環境は一段と厳しさを増している状況の中で一律+〇%の値上げをお願いする次第です。」
という業界が結束して値上げを打ち出すパターンです。

これに対し私たち調達担当者は、複数購買している他のダンボールメーカー様の製品との切替え採用(シェア操作)などを通じて結局値上げの打ち出しをいつもウヤムヤにしてしまいます。

ところが、ある日
ダンボールの主材料である古紙が中国での旺盛な需要を背景に高値での買取攻勢を受けており、国内のお客様に製品提供するには、この中国に買い負けない価格で対抗するしかないので値上げを認めてください」
という申し入れを受けました。

これまでは国内の同業他社との牽制を演出して値上げの打ち出しをかわしてきましたが、この背景・理由に対しては小手先の策を弄することは止め「買い負けない」体制のため、打ち出し金額にて承諾をしました。

この判断が正解であったかは良くわかりませんが、従来の枠組みに当てはまらない背景・状況に対して不用意に従来と同様の対応をしてしまうと取返しのつかない事態を引き起こしてしまうかもしれませんね。

お~コワ~。
だけど、それだから毎日の緊張感があって良いのかも。

取引先様の現場に直接語りかける

「何のために仕事をするの?」

この質問には、まず「生活のため」という答えが返って来ると思いますが、同じ金額の給料がもらえるなら少しでもやりがいのある仕事をしたいと考える方が多いでしょう。

実際には、世の中には様々な業種・企業があり給料や仕事の内容を聞くと「あっちの会社の方がいいかも」と思ってしまうことが良くありますね。

それでも多くの企業が事業を継続できているのはそこに働く方々がおられるからで、その多くはその企業で働くことに何らかのやりがいを見出しておられるからだと思います。

その「やりがい」は人によって「やればやっただけお金になる」とか「あの人に認められたい」とか様々だと思いますが、私はモノ作りのメーカーを就職先として選んだのは自社の製品またはそれが使用された最終製品を通じて少しでも社会の役に立つ仕事に携わりたいと考えたからです。

 納入品は取引先様のモノ作りの総合力の成果

 取引先様で実際にモノ作りをしているのは現場の方々です。
しかし、それぞれ会社の現場のモノ作りの考え方や姿勢はそれまでの歴史やトップの方針や組織環境が絡み合って育まれた企業風土というものがあり、品質打合せなどで協議をすると本当に様々であることを感じます。

しかし、会議や書類で何を言ったり書いたりしてもメーカーであれば納入品がその会社の総合力の成果です。

例えば、液晶関連で品質仕様書を締結して購入を開始した材料で規格に定めのない新しい不具合モードが発生し、その都度そのモードについての原因と対策を協議して仕様書を改定するのですが、次々に新しい不具合モードが発生して困ったことがあります。

何が困ったかというと取引先様は営業担当者から「ウチは仕様書の規格内の製品を納めているのに、規格にない不具合モードが原因で返品したいと言われても困ります。」と言われてしまうのです。

このコメントはこの文脈だけなら筋が通っていますが、取引先様は「使い物にならない製品」を作っているのが現実なのです。
目先のお金のやり取りは大事ですが、このままではお互いにその業界で生き残ることはできません。

しかし、品質打合せをしても取引先様からは「仕様書通りの製品を納めるのに全力を尽くします」などという説明の繰り返しで・・・

どうしましょうか?

本当に困ってしまいました。

 メーカーとしてのプライドに訴える

一般に営業部門は自社の損益に直接影響する交渉事を担っており、この取引先様の場合も「仕様書にない不具合モードで返品を要望されても困る」という立場で、私たちの会社では以前から困った取引先様というイメージが定着していました。
しかし、設備・技術ともに代替えできる企業が見い出せない状況でした。

「あの取引先様はそういう会社だ」と決めつけるのは簡単ですが、何とか道は開けないかと考えたところ、それまで取引先様の現場の方々の顔が見えてないことに気づきました。

そこで考えたのは私たちでも持っているモノ作りに対するプライドをこの取引先様の現場の方々も持っているはず。だから、直接私たちの思いを伝えてみよう、と考えたのです。

具体的には私たちの会社の品質保証部門と製造部門で現場を熟知しているメンバーと一緒に取引先様に訪問し、現場の方々と同席して私たちの会社の状況を説明しました。

つまり、私たちも自社のお客様から製品について仕様書に規定のない指摘を受けることは良くあることで、もし、これが言いがかりであればそれなりの対処はするが、基本的には最終製品を買ったお客様の満足度を向上させることで、過去からこうした努力を業界全体でしてきたお陰で液晶を使った製品の用途や数量が拡大してきたこと説明した訳です。

そうすると取引先様の現場の方々からも「満足してもらえるものを納品したいが、設備の老朽化や設置環境の問題でやなかなか成果に繋がらない」という説明でした。

結果的には、この時の打合せをキッカケとして取引先様のある職長の立場の方が、多分納入した製品がお客様の満足を得ていないことが残念だったのでしょう、それ以後は仕様書に規定があろうとなかろうと大変な熱意を持って不具合の芽を潰すことを徹底してくれました。

これに対して私たちの製造部門も同じように設備の老朽化や設置環境の問題を抱えてしましたからその熱意に応えて装置の清掃作業の徹底の度合いや製品の社内検査の方法や判断基準などかなり親密に意見交換を実施しました。

一方、私たち調達部門からの働きかけもありますが、この取引先様のトップが自分の会社を鍛えたいという考えから、私たちの会社から出る厳しい要望に応えて行くこと、という方針の打ち出しもありました。

こうして、その後この取引先様は別の稿でも書きましたが、キーマンとなった職長さんを中心に品質改善は着実に成果を上げ、その結果対象材料について業界の雄として私たちの会社以外との取引も順調に拡大し、工場も新設されています。

 

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調達の業務課題には様々な対応があり、何が正解ということはありません。

その中で、このブログが対応策の検討やセカンドオピニオンとして少しでもお役に立てれば幸いです。

また、営業職の方々にとっても調達担当者の考え方を理解することで取引先との良好な関係を築くための参考となれば幸いです。