調達魂

~日々奮闘する資材調達・購買バイヤーに贈る言葉~

新規に事務所や実験室のレイアウトを検討・決定する手順

「イノベーティブで創造的な空間を構築する」というようなお題目で多くの企業が新しく事務所や研究室を建設したりリフォームしたりしていますね。

こうした時は対象の空間を具体的にどうデザインしレイアウトするか、検討するチームを社内で立ち上げることが多いと思います。

しかし、このチームの知見だけでは具体的デザイン・レイアウトをゼロから立案するのは雲を掴むような話ですので、まず無理でしょう。

そこで、こうしたことに何の経験もないリーダーは、数年前にお世話になったとか、今の事務所の実績とか、とにかく何らかのツテで特定のオフィスファニチャーメーカーとか専門商社に相談して、感触が良ければそのまま最終仕様の決定までした後に
「調達さん、これを発注したいので価格折衝をお願いします」
と言って依頼をして来るケースが多いのではないでしょうか。

これではダメです。

このような場合は「〇〇取締役の了解も得ている」という根拠を付けてくるケースもありますが、こうした検討に何のノウハウも持たない役員の判断など関係ありません。
しかし、検討がそこまで行った状態で調達部門として「ちゃぶ台返し」してしまうと話が紛糾してしまいますので、検討の初期段階で手順・考え方をキチンと協議・整理しておくようにしています。

「何故これを選んだのか」を社内外に説明できる検討をするために

調達の業務として「良いもの」を「安く」買うということがありますが、1社だけに相談した検討では悪くはないでしょうが比較できるものがなく、何を持って「良いもの」と判断したのか社内外の第三者に説明できません。

検討チームのメンバーも、もっと高いレベルでの検討を望むはずです。

そこで、私が提案する検討のステップは

  1. 競合プレゼンテーションを実施する。
  2. その結果から発注先をどの業者にするかを決定する。
  3. 決定した業者と詳細な仕様・数量を協議して最終仕様を決定する。
  4. その最終仕様にもとずき調達部門は価格折衝を行い発注する。

という流れです。

「競合プレゼンテーション」に向けた準備

取引先様にプレゼンテーションを依頼する時には諸条件を提示する必要があります。

1、コンセプトの策定を依頼

一般論で書くと「革新的で」「地球にやさしく」「働きやすい」とか流行語のオンパレードになってしまいますが、個別の企業が具体的な言葉に落とし込むとそれなりに独自の内容になると思います。

しかし、あくまでコンセプトですので内容はやはりフワっとしたものになるでしょうね。

一般にコンセプトの策定は社内コンセンサスを得る必要もあるために一番時間がかかりますので早めに着手を依頼します。

2、対象空間の諸元の情報の取りまとめ

空間の場所・大きさや執務する予定人員とか会議室の大きさと数、更に電源コンセントの位置・数や天井梁の位置など。

3、プレゼンテーションをお願いする取引先様の選定

私たちの会社は日本の大手メーカー様と直接取引がありますので直接依頼しますが、専門商社様からは「各社のいいとこ取り」をした提案をいただける可能性があります。

だいたい私たちの会社では3社~4社の取引先様に依頼をしています。

4、結果の判定基準の決定

あり得るパターンとして

  • 検討グループ内で協議して決定する。
  • 対象の場所で執務予定の各グループメンバーに採点表を配布して合計する。
  • 担当役員の「鶴の一声」

この内容によってプレゼンテーションを聴く必須の出席者が決まり、それを踏まえて日程の調整がようやくできることになります。

「競合プレゼンテーション」の実施

プレゼンテーションの内容は投資予定の金額によって変わってきますが、1億円レベルになると取引先様の気合いの入れ方は相当なものになります。

提示されるパース(完成予想図)には椅子・机だけでなく、提示したコンセプトを踏まえて壁の配色や床の色分けばかりでなく、「柱にニュートンのこの言葉を書きましょう」みたいなことまで提案いただく場合もあり、世の中の最新の動向や各社各様の新製品などを織り交ぜた提案を聴くことができますので非常に刺激的です。

何しろ、今の時代の大手オフィスファニチャーメーカー様はこうした「空間プロデュース」にかなり注力していますので絶対に聴き応えがあります。

実は、こうした大手メーカー様の渾身のプレゼンテーションを聴かずに特定の取引先様と最終仕様まで決めてしまうのはとてももったいないことだと私は考えているのです。

発注先の決定

プレゼンテーションが終るとあらかじめ決めていた判断基準により発注先を決定します。

この決定理由については十分ヒヤリングして理解するようにします。

何故なら、選定されなかった取引先様に対して私たち調達から結果の連絡と理由の説明をする必要があるからです。

この時、もう一つ注意が必要なのは、こうした場合の理由は明確に言い切れることは少なく、実態としては「何となく」という感じが多いと思います。
しかし、その取引先様がその後会う人ごとに違う理由で説明されると混乱を招きますので社内で理由をキチンと言葉に落として申し合せておくことをお勧めします。

そして最終仕様の決定へ

ここまでは対象空間のデザイン・レイアウトを検討するためのパートナー選びの段階に過ぎませんが、この段階では関係者の間でイメージの共有がかなり進みプレゼンテーションで落選した取引先様の提案なども無意識の内に参考にして検討できるようになちます。

さて、ここからはこれまでの資料や考え方を叩き台にして最終の仕様・数量を決めていくことになります。

この中にはロッカーやホワイトボード、ゴミ箱・傘立てや下駄箱なども入ってきます。

そうして、ようやくまとまった最終仕様・数量の見積に対して私たち調達部門は価格折衝を行います。


しかし、「最終仕様」と言っても、その後でも細かな変更は良くあることです。

これに対しては、これまでの経験では1回では済まず数回繰り返されるため、時機を見て一括して改めて簡略した価格折衝を実施した上で注文書を差し替えるようにしています。

 

調達の業務課題には様々な対応があり、何が正解ということはありません。

その中で、このブログが対応策の検討やセカンドオピニオンとして少しでもお役に立てれば幸いです。

また、営業職の方々にとっても調達担当者の考え方を理解することで取引先との良好な関係を築くための参考となれば幸いです。