「取引先の工場を訪問」 何を見て何を聞く?
既存の取引先様を訪問する場合と新規の取引先様を訪問する場合の違いを考えてみましたが、どちらの場合も基本に忠実に従ってセオリー通りに臨むのが良いように思います。
そして、どんな場合でもスタンスは
「取引先様のことを少しでも多く理解したい」
と思うことで、これを起点に質問事項や確認事項を考えます。
まず、目的を明確にする
何のために工場訪問するのでしょうか?
- 新規取引開始に向けた現場確認
- 品質問題に対応するための訪問打合せや監査
- その他、表敬訪問や折り入ってのお願い など
目的は様々ですね。
自社にお越しいただいての打合せと同様に同行する自社内メンバーも含めて事前に目的を明確にすることで、取引先様に事前準備いただく資料・情報や当日のゴールのイメージをブレのないものにします。
訪問前の事前準備
長年に亘り取引をしている取引先様であっても、この機会に改めてネットのホームページの内容や企業調査会社を通じて得られる信用情報を入手して売上・利益の金額や従業員数などを照らし合わせて経営状況を確認しておきます。
「こんにちは」と挨拶する前に
一般に工場訪問すると、取引先様から出迎えを受け、応接室に通されて「本日はわざわざお越しいただきありがとうございます」という感じでスタートしますが、この前に入手できる情報はたくさんあります。
私一人の単独訪問の場合
できれば約束の時間より少し早目に行って、工場の外周を歩いて1周します。
これで何をするかって?
- まず、工場の外装や植栽はキレイに管理されているかを見ます。
→外装や植栽管理に費用をかけても直接利益を生むものではありません。
しかし、これはいわゆるその会社の「身だしなみ」です。 - そして、音を聞きます。
→これで、その工場のおよその設備について見当をつけられることがあります。
例えばプレス工場なら150トンプレス2台、60トンプレス4台稼働中とい
うようなことや加工のタクトタイムから技術水準のヒントが得られます。
とにかく音を聞くことでいろいろなことがわかります。
「音がしない」場合は、音が出るような作業がない、というのが情報です。 - 同時に臭いを嗅ぎます。
→普通は何もありませんが、もし異臭がしたら後で原因を確認します。 - スクラップ置き場で廃棄物を見ます。
→スクラップを見るとその工場の技術水準や私たちの会社以外でどんな仕事をし
ているか、などたくさんのヒントが得られます。
とにかく自分自身の五感を総動員して、デジタルデーターではない現地に来ないとわからない情報を収集します。
自社の製造部門や品質保証部門のメンバーと一緒の場合
若い人と一緒なら取引先様の工場訪問する時の礼儀を率先して実演して見せます。
例えば
- 冬であれば着ているコートは脱いでから玄関を入る。
- 1階事務所の方々総員から立ち上がって挨拶をいただいた場合は、皆様に
「〇〇株式会社です。いつもお大変世話になっております。本日はよろしくお願い します。」とハッキリ口上を申し上げ、ゆっくり深々と頭を下げる。 など
決して尊大な態度を取ったり、逆にオドオドしたりせず、ゆったりと歩を進めます。
そして玄関から応接室まで案内される間に見るもの
ここも情報の宝庫です。
玄関を入る前と同様に自分自身の五感を総動員して、音・臭い・空調温度などを感じ取るのと同時にカレンダー・掲示物・表彰状・置き物に目を凝らします。
具体的には
- カレンダー
→私たちも取引先様からいただきますね。取引先様でも同様でしょう。
どんな会社と取引しているのでしょうか?
もしかしたら私たちの会社と同じ商社様もあるかもしれませんね。
どこの銀行と取引しているのでしょうか?
従業員10名の会社でメーンバンクが都市銀行の場合もありました。 - 掲示物
→現場ではどんな活動をしているのでしょうか?興味津々ですね。 - 表彰状
→私たちの会社以外、どちらの会社からどんな名目で表彰されているでしょうか?
警察や消防からの場合もあります。どんな名目でしょうか? - 置き物
→以前、ある取引先様で胡蝶蘭が置かれていました。社長様にお尋ねしたところ、
「先週、会長の誕生日に地元の信金からいただきました」とのことでした。
やはり地元の名士なのですね。
また、私には美術品を値踏みするような鑑定眼はありませんが書が掛けてあったら
何と書いてあるか聞いてみます。経営哲学の一端がわかるかもしれません。
こうして「こんにちは」と挨拶する前にできるだけ情報を頭に入れておきます。
現場見学では
そうして、ようやく応接室で挨拶を交わした後に「では現場をご案内します」となることが多いですね。
まず、現場見学では常識として絶対にしてはならないこととして
- 対象が何であっても許可なしに触れたり、手に取ったりしてはならない。
- 歩行通路だけを歩き、床に引かれている白線は踏んではならない。
- 天井クレーンの吊り下げ荷物の下に入ってはならない。
あくまで取引先様の現場です。謙虚に謙虚に振舞いましょう。
この基本を抑えた上で、現場見学で確認することとして
- その取引先様の一番の特長である技術・設備・工程の確認
→その技術は何を持って他社と差別化ができているのか。 - 現場はキレイか
→5Sつまり、整理・整頓・清潔・清掃・躾 の状態確認です。 - 社員の方々の表情は良いか。
- 現場の掲示物に書かれたスローガンや活動状況・成果を読む。
- 主な生産設備のメーカー名の確認
→例えば、マシニングセンタと言っても、トヨタ自動車で言うところのカローラから
レクサスまでピンキリです。
これがどのクラスの機械を入れているかで経営者の目指すランクを推し量ります。 - そして、ここでも相変わらず自分自身の五感を総動員して感じ取るようにします。
こうして、取引先様の実際の状況を少しでも理解することで、その後の両社の課題の取り組みに関する協議を、より噛み合ったものにして行くのです。
例えば、上記のマシニングセンタで1台1億円以上もする機械は精度が違うのです。
こんな機械を導入している取引先様に対して購入品の価格だけの話では心に響きません。
こうした場合、本当に価格だけなら他に安く対応できる会社はいくらでもあるでしょう。
ですから、一般より優れた水準を目指していることを理解した上で、加工エリアの温度管理の有無や程度、仕上げの丁寧さなどその機械を生かす現場体制になっているか
とか
その設備の特長を生かした製品を私たちの会社でより多く採用するための工程や資材の効率向上などを求める話をしたりします。
財務で問題がある時は
財務も含めた経営面で問題があると考え、状況をヒヤリングするのに来訪要請するのではなく、訪問をするのは従業員の方々の表情も含めた会社全体の雰囲気を直接私たちが肌で感じて確認することが目的です。
既存取引先様でも新規に検討する取引先様でも現場見学までのメニューは同じです。
その上で取引先の社長様以外の方は席を外していただき、2人で会話します。
ある新規に検討する取引先様の例では
「一昨年前の決算は〇千万円の赤字でしたが、どうされたんですか?」
とズバッと質問したところ
「中国向けに標準機の輸出で順調に業績を伸ばしてきましたが、3年前にある特殊装置を納品したところ当初仕様にない機能でモメ事が発生し、結局欠損処理をしました。
銀行さんとその後の融資について協議しましたが、幸い標準機の受注残が潤沢であったことから〇億円の与信枠を設定いただけましたので、今は不安はありません。」
との説明でした。
「不安はありません」というのは実際どうかはわかりません。
しかし、私たちは買う側で、売る側と違い注文品が納入されない限りお金は支払ません。
更に、この時は試作品を製作する装置が対象であったため、私たちの会社のリスクはそれほど大きなものではありませんでしたので、その後価格折衝を経て発注に至りました。
「取引先様訪問」というと、「品質監査」とか「検査判定基準の現場突合せ」とか品質に関わる訪問が印象強く残っています。
しかし、何の場合でも会社ごとに現場は全く違うもので、その現場を丁寧に説明・案内していただける調達というお仕事を私は気に入っています。