調達魂

~日々奮闘する資材調達・購買バイヤーに贈る言葉~

「価格折衝」でも「品質打合せ」でも3手先を準備する

詰将棋には1手詰から長いものだと江戸時代の「将棋無双」には何と225手詰というものまであります。

しかし、交渉事では相手先がどんな対応をするかの予測は一問一答くらいまでで、その先の問答を予測するには可能性が広すぎるため、私は現実的な対応として3手先まで考えるようにしています。

この場合の3手先とは

私たちから取引先様に「これでお願いしたい」との申し入れることが1手目
これに対し、取引様から「承知しました」という場合は、この1手で交渉終了。

そうではなく、取引様から「いや、それは〇〇の理由で対応は厳しいです」という説明があった場合は、それが2手目

その説明に対して例えば「その理由であれば規格値の緩和を協議する準備がある」などと切り返すのが3手目

つまり、自社からのお願いに対する取引先様の反応に面談席上で臨機応変(場当たり的)に対応するのではなく、あらかじめ何通りかの反応を予想し、予想したそれぞれの反応に対してあらかじめ対応を準備しておくのです。

設備案件の価格折衝の場合は

一般的に「見積評価」をした上で事前に落としどころの金額を社内に説明し、了解を得て「弊社も事業環境が厳しいため精一杯の価格協力をお願いします」などと言って価格折衝を開始しますね。

この価格協力のお願いに対する取引先様の回答金額をあらかじめ予想しておく訳です。

取引頻度の高い取引先様の場合、この時の回答金額はある程度予想ができますが、新規の取引先様の場合はあらかじめ何通りかの反応を予想しておきます。

私個人は、こうした設備案件で一番価格に影響するのは「やってみなければわからない」というリスクを取引先様がどの程度感じているか、ではないかと思っています。

ですから生産技術部門の担当者にあらかじめ対象案件についてリスクの項目とその大きさをヒヤリングし、価格折衝の席上で取引先様と協議できるようにしておきます。

例えば
私たちからの「価格協力のお願い」に対する取引先様からの回答金額に対して私の方から「今回は実績豊富な貴社にお願いしたいと考えてますが、それにしては設計工数が随分多い印象です。ここを見直していただけませんか」など、3手目を準備しておくのです。

これに対する取引先様からの説明がどうであれ、生産技術部門の担当者は疑問がある程度解消し決着金額に対する納得性が高くなり、またそれが初号機の場合には2号機ではそうした設計費用はかからないのか、ということなどを席上で確認することもできます。

品質打合せの場合

突発的な品質トラブルではなく、通常の品質・歩留りの向上を目的とする打合せでは取引先様からの説明はあらかじめ十分予想がつきます。

これに対し「月例打合せだから」と言って何の準備もなく打合せに臨むと席上で皆が腕を組んで「う~ん、どうしましょう」などと行き詰まってしまうこと必至です。

設備案件の価格折衝の場合は必ず何らかの形で価格決着することができますが、膠着した品質について状況を打開するためには「では、また来月まで両社の宿題ということで」という訳にはいきません。

そんなことをしていたら、その分だけその製品の死期が早まってしまうのですから。

 

コーチング論の要諦の中に「答えはアナタの心の中にある」というのがあるそうです。

私は品質向上のための答え(=対応策)は取引先様の社内にあると考えています、
そのためには「1+1=2」という論理的な議論の前に取引先様内部の品質向上に対する熱意が絶対に必要だと思っています。

ですから、このブログの別の稿で書いたように何とか取引先様の現場やトップに従来より格段に熱意を持ってもらえるよう、メーカーとしてのプライドや企業としての業容拡大などの切り口をなんとか見出して働きかけるようにしています。

tyoutatsumeister.hatenablog.com

そう言えば、ある品質向上に苦労していた材料について、私から取引先様の現場の方々に
「この材料はドイツの〇〇社製自動車に搭載されるカーナビに使用されることになった」
と説明したところ
「え~、それじゃ今の品質水準で精一杯などと言ってられない」
と、現場の方々が異様に燃えてくださり、改善活動が軌道に乗ったことがありました。

 

調達の業務課題には様々な対応があり、何が正解ということはありません。

その中で、このブログが対応策の検討やセカンドオピニオンとして少しでもお役に立てれば幸いです。

また、営業職の方々にとっても調達担当者の考え方を理解することで取引先との良好な関係を築くための参考となれば幸いです。