調達魂

~日々奮闘する資材調達・購買バイヤーに贈る言葉~

妻や子供に「あれはオレ達が作った」と誇りたい

2000年代初頭は米国MBA流の「利益の極大化」が大流行

当時から私はこの考え方には全く共感できませんでした。
そして、その後も「株主価値の最大化」がキーワードになった時期がありましたが、私にとっては金の亡者にしか思えなかったのです。

そんなに金を儲けて、何に使うの?何がしたいの?という感じです。

こうした中で
大成建設の「地図に残る仕事」というキャッチコピーは胸に刺さりましたね。

建設業に携わる会社の方々は下請け・孫請けとかどんな立場の方でも
例えば
スカイツリーはオレ達が作った」
とか
青函トンネルはオレ達が作った」とか、家族に言える訳です。うらやまし~

 

量産部品の生産というモノ作りの会社に勤める私にとっては「地図に残る仕事」はできませんが、私たちの会社の製品を組み込んだ最終製品によって「私たちの家族の日常生活をより便利で豊かにするモノ作り」には貢献できるのです。

液晶テレビがそうでした。

我が家で液晶テレビを買って、配線を終えて最初に番組が映った時に
「これ、うちの会社の部品が使われてるんだ」
と家族に言えた時は誇らしい気持ちでいっぱいでした。

 

昔は「ウチのお父さんは家では仕事の話は全くしない」という話を良く聞きましたが、
会社での人間関係のグダグダなど家では思い出したくもありませんよね。

だから私は自分が勤める会社の製品が私たちの日常生活の中で役に立っていることを妻や子供にスゴく自慢したいのです。
そして、そうすることで芸能人やスポーツ選手などマスコミが取り上げる派手な仕事だけでなく、広義で社会を支える仕事の大切さを伝えたいと思っているのです。

 どんな仕事にも「難しさ」や「こだわり」がある

以前、印刷業の方と塗装業の方からお話を伺う機会がありました。

これは別々の機会でしたが、どちらも「同じ色を再現するのは難しい」と言われていたことが共通です。

塗装業では1日で完了できないほど十分に大きい建物を塗装する時に前日と同じ色を調色する訳で、これができて1人前と言われるようです。

一方、印刷業界には「コカ・コーラレッド」とか「マクドナルドレッド」という言葉があるそうです。
つまり言葉では同じ「」でも、その企業のコーポレートカラーとしてデリケートな色目を非常に大事にしてこだわっている訳です。

私は、こうした一般にはあまり知られていないモノ作りの難しさやこだわりを子供たちを初め、もっとたくさんの方々に知ってもらいたいと思っています。

「こだわり」は何もラーメンのスープだけでなく、どんな仕事にもあるはずで、私はできるだけ多くの仕事についてそうした難しさやこだわりを知りたい。

そうすることで、その仕事をされている方々に心から敬意を持って接することができると思っています。

取引先様には敬意を持って接したい

調達マンの仕事は表面上取引価格をできるだけ低減することです。

しかし、その折衝は取引先様に礼儀としてではなく、敬意をもって行うことが両社の信頼関係を築く基本になると考えています。

 

 

ムチャな「要求仕様書」が技術革新を呼ぶ

新規の装置を検討する時の目的は

いろいろな切り口があるかとは思いますが

  1. それまで研究室で「手作り」していたものを初めて装置で製作する。
  2. 既に装置で製作しているが、従来に比べ品質・ボリュームを向上させる。

この2つに大別してみます。

しかし、製作する装置はその時点で既に世の中にある最新の技術や工作機械などの設備を基に検討されますので既存技術の応用という意味では同じかもしれません。

では、こうした検討で「どんな仕様の装置を目指すか」は誰が決めていますか?

生産技術部門が要求仕様を決めている場合

生産技術部門では今の生産体制を熟知してた上で、常に更に効率を向上させるアイデアや情報を収集し、次回の新規投資の機会に備えていると思います。

しかし、今の生産体制を熟知しているが故に効率向上のアイデアを盛り込んだ上で「これ以上は無理!」と自ら上限を決めてしまっていませんか?

そして、こうした場合の「要求仕様書」には、従来の知見を基にした装置の各工程や機器の配置イメージや設置予定場所の制約による全体寸法の条件などが記載されています。
つまり
既にここには「どんな装置にするのか」の概略イメージが記載されているため、引き合いを受けた装置メーカーはこのイメージに沿った検討をすることになります。

こんなことでは技術革新は絶対に起きませんよね。

「要求仕様書」には実現したいことを。「どうやって?」は不要

装置を検討した経験がない開発部門の担当者などが、少量試作用の装置などの仕様を検討する時に「装置のことはよくわからない」と途方に暮れていることがあります。

そうした時は
「装置のことなど何も知らなくても大丈夫。
 どんなモノをどれくらい作りたいか、だけを明確にして要求仕様として打ち出せば
 OK。あとはその道のプロが必死に考えてくれる。
 これを複数の装置メーカーに引き合いすることで、より良い提案が得られる。」
と話をしています。

 

戦艦「大和」の要求仕様書はムチャだけどシンプル

私が模範と考えている戦艦「大和」の要求仕様書は海軍軍令部から呉海軍工廠へのもので

  1. 主砲  46センチ主砲 8門以上
  2. 速力  30ノット以上
  3. 防御力 3万メートル遠方で発射された46センチ砲弾に耐えること。
  4. 航続力 18ノットで8000海里
  5. その他 15.5センチ副砲12門、偵察機4ないし6機、カタパルト2基
        12.7センチ高角砲12門、25ミリ機銃40丁

 ※御田重宝 著「戦艦「大和」の建造」(講談社文庫)より抜粋

 

どうです?

 

艦の大きさや主砲・副砲など兵装の配置についての注文はありませんね。
単純に「このような兵器を作れ」という要求がアッケラカンと示されている印象です。

しかし、この要求はこの前に就役し日本帝国海軍の旗艦となった戦艦「長門」の

      40センチ2連装砲塔X4基=8門

に比べてトンデモナイものです。

この仕様は海軍軍令部にとって仮想敵国である米国に対抗するために絶対に必要な戦力である(と確信している)という訳ですが「できるだけ大きく」「できるだけ速く」などとはせず、全て具体的な数値で表現されていますね。

現実性が高かろうが低かろうが、要求仕様を必ず数値に落とし込むのは必要なことです。
数値があって初めて議論や評価ができるのです。
上述した「途方に暮れる開発担当者」にも必ず数値を提示するよう話をします。

 

一方、お客様である海軍軍令部の要求に対して呉海軍工廠の設計者たちは「無理です」とは言えずに「主砲の口径・数量」「速力」「防御力」の要求仕様を満たすために総力を挙げます。

よく「戦艦大和の巨大さには圧倒された」というような文章を読みますが、海軍の設計者たちは 46センチ3連装砲塔X3基=9門 にするなど艦の巨大化を抑える様々な工夫を重ねています。

もし、この検討で新たな工夫がなく戦艦長門と同じ考え方で2連装砲塔X4基とする設計をしていたら戦艦大和は更に1.5倍程度の大きさになっていたと言われます。

だからこそ傑作艦として史上に残っていることになります。

零式艦上戦闘機ゼロ戦)の要求仕様書

手元に資料がありますので、この機会に紹介します。同じようにトンデモナイ内容です。

  1. 用途   援護戦闘機としての空戦性能及び迎撃戦闘機として敵の攻撃機の撃滅
  2. 大きさ  全幅 翼のはしからはしまでの長さ12メートル以内
  3. 最大速度 高度4000メートルで時速500キロ以上
  4. 上昇力  高度3000メートルまで3分30秒以内に上昇できること。
  5. 航続力  機体内タンクの燃料だけで高度3000メートルを全馬力で飛んだ場合
         1.2時間ないし1.5時間。
         普通の巡航速度で飛んだ場合、6時間ないし8時間。
  6. 離陸滑走距離 航空母艦からの発艦を想定し向かい風秒速12メートルの時で
           70メートル以下。
  7. 空戦性能 九六式艦上戦闘機二号一型に劣らぬこと。
  8. 機銃   20ミリ機関砲2挺。7.7ミリ機銃2挺。
  9. 無線機  普通無線のほか、無線帰投方位測定器を積載すること。
  10. エンジン 三菱製瑞星13型または三菱製金星46型を使用のこと。

 ※堀越二郎 著「零戦ーその誕生と栄光の記録ー」(講談社文庫)より抜粋

上記の中で「九六式艦上戦闘機二号一型」とは同じく堀越二郎氏らが開発し、海軍に制式採用されていた当時の最新戦闘機でしたが、今回の要求仕様は当時の航空界の常識ではとても考えられないことを要求しており、本当に実現するなら世界のレベルをはるかに抜く戦闘機になるだろう、と堀越氏は述懐しています。

しかし、堀越氏らは妥協することなく開発・設計を進め、世界レベルを凌ぐ戦闘機の開発を成し遂げた訳です。スゴイ!

 

日本帝国陸海軍からの新兵器開発に関する要求仕様書は多数あり、その内容も様々なものであったと思いますが、その中でも今回紹介した「戦艦大和」と「零戦」は技術革新という側面では傑出した成果であったのかもしれません。

何しろ、現代の自動車開発などでムチャな要求仕様を打ち出しても片っ端からクリアできる訳はありませんものね。

しかし、要求仕様を越える成果は絶対に得られません。

最近は「改革」という言葉が大安売りで、社内の方針・施策の説明で良く使われますが、中身を聞くと情けない思いになることが少なくありません。

チャレンジするなら、常に高い目標を目指したいものです。

 

詳細を記述することはできないのですが
私のいる部署で一緒に仕事をしている生産技術の課長さんにある時、事業部長から「極秘で装置の製作をお願いしたい」との話がありました。

内容は、お客様の私たちの製品を部材に組み込んでいる現場に、私たちの費用で自動機を搬入するというもので、私たちの会社の製品出荷に伴う検査や包装工程の工数・資材などのコストダウンする目的でした。

そして、装置に対する要求仕様は現状人手作業で30秒のタクトタイムを10秒に、というようなものでした。

私自身、生産技術の課長さんからこの話を聞いた時は、企業や組織などの制約でモノ作りの一連の工程が「出荷梱包」という作業で分断されているが、これを一気通貫にする今回の計画はどう考えても合理的に思える。
「しかし、タクトタイム10秒はトンデモナイなぁ~」という状況でした。

実際には、この生産技術課の方々は必死にがんばり、最終的にはタクトタイム10秒には至りませんでしたが、13秒まで短縮した上で安定生産を実現したのです。

結果的にこの装置はコストダウン効果もありますが、早く安定した生産ができるということで私たちの会社が取引するその業界のお客様に続々と納入されて行き、後に私たちの会社のビジネスモデルの一つとされるまでになりました。

 

振り返ってこの装置のことを考えると、「タクトタイム30秒なら、そう難しくはない」とのことで、多分競合もそのレベルならスグにできたことでしょう。
実際に競合企業でそのような動きもあったようですが、結局私たちの会社のタクトタイムには追随できませんでした。

「タクトタイム10秒」というムチャな要求仕様に対して当時の生産技術の方々は本当にボロボロになるまで取り組んだお陰で他社が追随できない装置を作り上げた訳です。

 

余談ですが
この装置の製作に関わった生産技術の方々の中にこの装置のことを「1号機」と呼ぶ方と「初号機」と呼ぶ方の2通りがありました。

私は「初号機」と呼ぶ方には「人類補完計画」についての意見を求めたものです。

 

「取引先の工場を訪問」 何を見て何を聞く?

既存の取引先様を訪問する場合と新規の取引先様を訪問する場合の違いを考えてみましたが、どちらの場合も基本に忠実に従ってセオリー通りに臨むのが良いように思います。

そして、どんな場合でもスタンスは
「取引先様のことを少しでも多く理解したい」
と思うことで、これを起点に質問事項や確認事項を考えます。

まず、目的を明確にする

何のために工場訪問するのでしょうか?

  • 新規取引開始に向けた現場確認
  • 品質問題に対応するための訪問打合せや監査
  • その他、表敬訪問や折り入ってのお願い など

目的は様々ですね。

自社にお越しいただいての打合せと同様に同行する自社内メンバーも含めて事前に目的を明確にすることで、取引先様に事前準備いただく資料・情報や当日のゴールのイメージをブレのないものにします。

訪問前の事前準備

長年に亘り取引をしている取引先様であっても、この機会に改めてネットのホームページの内容や企業調査会社を通じて得られる信用情報を入手して売上・利益の金額や従業員数などを照らし合わせて経営状況を確認しておきます。

「こんにちは」と挨拶する前に

一般に工場訪問すると、取引先様から出迎えを受け、応接室に通されて「本日はわざわざお越しいただきありがとうございます」という感じでスタートしますが、この前に入手できる情報はたくさんあります。

私一人の単独訪問の場合
できれば約束の時間より少し早目に行って、工場の外周を歩いて1周します。

これで何をするかって?

  • まず、工場の外装や植栽はキレイに管理されているかを見ます。
    →外装や植栽管理に費用をかけても直接利益を生むものではありません。
     しかし、これはいわゆるその会社の「身だしなみ」です。
  • そして、音を聞きます。
    →これで、その工場のおよその設備について見当をつけられることがあります。
     例えばプレス工場なら150トンプレス2台、60トンプレス4台稼働中とい
     うようなことや加工のタクトタイムから技術水準のヒントが得られます。
     とにかく音を聞くことでいろいろなことがわかります。
     「音がしない」場合は、音が出るような作業がない、というのが情報です。
  • 同時に臭いを嗅ぎます。
    →普通は何もありませんが、もし異臭がしたら後で原因を確認します。
  • スクラップ置き場で廃棄物を見ます。
    →スクラップを見るとその工場の技術水準や私たちの会社以外でどんな仕事をし
     ているか、などたくさんのヒントが得られます。

 とにかく自分自身の五感を総動員して、デジタルデーターではない現地に来ないとわからない情報を収集します。

 

自社の製造部門や品質保証部門のメンバーと一緒の場合
若い人と一緒なら取引先様の工場訪問する時の礼儀を率先して実演して見せます。
例えば

  • 冬であれば着ているコートは脱いでから玄関を入る。
  • 1階事務所の方々総員から立ち上がって挨拶をいただいた場合は、皆様に
    「〇〇株式会社です。いつもお大変世話になっております。本日はよろしくお願い します。」とハッキリ口上を申し上げ、ゆっくり深々と頭を下げる。  など

決して尊大な態度を取ったり、逆にオドオドしたりせず、ゆったりと歩を進めます。

 

そして玄関から応接室まで案内される間に見るもの
ここも情報の宝庫です。
玄関を入る前と同様に自分自身の五感を総動員して、音・臭い・空調温度などを感じ取るのと同時にカレンダー・掲示物・表彰状・置き物に目を凝らします。
具体的には

  • カレンダー
    →私たちも取引先様からいただきますね。取引先様でも同様でしょう。
     どんな会社と取引しているのでしょうか?
      もしかしたら私たちの会社と同じ商社様もあるかもしれませんね。
     どこの銀行と取引しているのでしょうか?
      従業員10名の会社でメーンバンクが都市銀行の場合もありました。
  • 掲示
    →現場ではどんな活動をしているのでしょうか?興味津々ですね。
  • 表彰状
    →私たちの会社以外、どちらの会社からどんな名目で表彰されているでしょうか?
     警察や消防からの場合もあります。どんな名目でしょうか?
  • 置き物
    →以前、ある取引先様で胡蝶蘭が置かれていました。社長様にお尋ねしたところ、
     「先週、会長の誕生日に地元の信金からいただきました」とのことでした。
     やはり地元の名士なのですね。
     また、私には美術品を値踏みするような鑑定眼はありませんが書が掛けてあったら
     何と書いてあるか聞いてみます。経営哲学の一端がわかるかもしれません。

こうして「こんにちは」と挨拶する前にできるだけ情報を頭に入れておきます。

現場見学では

そうして、ようやく応接室で挨拶を交わした後に「では現場をご案内します」となることが多いですね。

まず、現場見学では常識として絶対にしてはならないこととして

  • 対象が何であっても許可なしに触れたり、手に取ったりしてはならない。
  • 歩行通路だけを歩き、床に引かれている白線は踏んではならない。
  • 天井クレーンの吊り下げ荷物の下に入ってはならない。

あくまで取引先様の現場です。謙虚に謙虚に振舞いましょう。

この基本を抑えた上で、現場見学で確認することとして

  • その取引先様の一番の特長である技術・設備・工程の確認
    →その技術は何を持って他社と差別化ができているのか。
  • 現場はキレイか
    →5Sつまり、整理・整頓・清潔・清掃・躾 の状態確認です。
  • 社員の方々の表情は良いか。
  • 現場の掲示物に書かれたスローガンや活動状況・成果を読む。
  • 主な生産設備のメーカー名の確認
    →例えば、マシニングセンタと言っても、トヨタ自動車で言うところのカローラから
     レクサスまでピンキリです。
     これがどのクラスの機械を入れているかで経営者の目指すランクを推し量ります。
  • そして、ここでも相変わらず自分自身の五感を総動員して感じ取るようにします。

こうして、取引先様の実際の状況を少しでも理解することで、その後の両社の課題の取り組みに関する協議を、より噛み合ったものにして行くのです。

 例えば、上記のマシニングセンタで1台1億円以上もする機械は精度が違うのです。
こんな機械を導入している取引先様に対して購入品の価格だけの話では心に響きません。

こうした場合、本当に価格だけなら他に安く対応できる会社はいくらでもあるでしょう。
ですから、一般より優れた水準を目指していることを理解した上で、加工エリアの温度管理の有無や程度、仕上げの丁寧さなどその機械を生かす現場体制になっているか
とか
その設備の特長を生かした製品を私たちの会社でより多く採用するための工程や資材の効率向上などを求める話をしたりします。

財務で問題がある時は

財務も含めた経営面で問題があると考え、状況をヒヤリングするのに来訪要請するのではなく、訪問をするのは従業員の方々の表情も含めた会社全体の雰囲気を直接私たちが肌で感じて確認することが目的です。

既存取引先様でも新規に検討する取引先様でも現場見学までのメニューは同じです。

その上で取引先の社長様以外の方は席を外していただき、2人で会話します。

ある新規に検討する取引先様の例では
「一昨年前の決算は〇千万円の赤字でしたが、どうされたんですか?」
とズバッと質問したところ
「中国向けに標準機の輸出で順調に業績を伸ばしてきましたが、3年前にある特殊装置を納品したところ当初仕様にない機能でモメ事が発生し、結局欠損処理をしました。
銀行さんとその後の融資について協議しましたが、幸い標準機の受注残が潤沢であったことから〇億円の与信枠を設定いただけましたので、今は不安はありません。」
との説明でした。

「不安はありません」というのは実際どうかはわかりません。

しかし、私たちは買う側で、売る側と違い注文品が納入されない限りお金は支払ません。
更に、この時は試作品を製作する装置が対象であったため、私たちの会社のリスクはそれほど大きなものではありませんでしたので、その後価格折衝を経て発注に至りました。

 

「取引先様訪問」というと、「品質監査」とか「検査判定基準の現場突合せ」とか品質に関わる訪問が印象強く残っています。

しかし、何の場合でも会社ごとに現場は全く違うもので、その現場を丁寧に説明・案内していただける調達というお仕事を私は気に入っています。

 

「ネットから購入したい」という場合の対応

今はネットの時代で、事務用の文房具や現場で使う工具や消耗品は特定の業者と契約してそのシステムを通じて発注しているのが一般的で、これで日常業務に必要なものはほとんど揃うと思います。

しかし、あくまで「ほとんど」であって「全て」ではありませんね。

こうした中で、開発部門などでは自社で契約しているカタログ販売システムを検索しても見つからない場合はAmazonなどから個人で購入し、支払った金額を後から会社に請求して精算するという方法を取られていることが多いのではないでしょうか。

個人で購入した後の精算ではガバナンスの問題やリスクがある

基本は会社の業務で必要なものは会社のシステムを通じて発注することです。

システムを通じて発注しない場合の問題としては

  • 会社のお金を使う場合は上長の承認を経て、調達部門の決裁を受けた価格で発注するというガバナンスが効かないという問題。
  • ネットでは基本的に前払いのため、支払いを行った後に現品が送付されなかったり、仕様や品質に問題があるなどのリスクがある。

その他に、購入・精算の処理をする本人や経理部門では通常より業務工数が多くかかってしまい面倒ですね。

しかし「問題がある」と指摘だけしても対処方法を提示しなければただの評論家です。

では、どうするか・・・

既存取引先の商社様に代理購入を依頼する

既存取引先様の中で「困った時にはご相談ください」と言って、口先だけでなく、本当に頼りなる商社様を選んで対応をお願いしたところ

「いいですヨ」

と快諾してもらえました。

手順はシンプルです。

  1. 自社内の依頼元は欲しい物品の型式名と数量を記載があるネットのページの情報と併せて私たち調達部門に社内メールで購入依頼する。
  2. 私たち調達担当者はこの社内メールの不要な情報を削除した上で代理購入をお願いする商社様に購入の手配と見積書の差し入れを依頼する。
  3. 商社様から提示された見積書を依頼元に転送し、社内システムから「注文依頼」をかけてもらう。
    →この時の見積金額はネット上の販売金額に商社様のリスク及び管理費用分として、
     +10%程度上乗せした金額での提示を容認しています。
  4. 対象品が納品されたら内容物の確認をした上で検収計上処理を行う。

以上で、何らかの事故で対象物が納入されない場合、私たちの会社には支払義務がありませんが、これまで幸運にも?商社様側で「お金は払ったが品物が来ない」と言うトラブルは発生していません。

 

ちなみに、この取引先様はいわゆる「なんでも屋さん」です。

実は、最初に挨拶した時は「なんでも屋さん」ということで、その他の取引先様に比べて一段低く見ていました。

ところが本当に何でも受けてくれて滅多なことではギブアップしないのです。

例えば、オレンジブックの掲載品の見積を依頼すると
「この製品のメーカーとは直接取引があるため、もっと安い金額で対応できます」
と言った対応もしてくれますし、
「この装置とこの装置の機能を組み合わせてこんなことがしたい」
と言うと、2つの装置をインテグレートした製作物の対応もキチンとしてくます。

ここまでなら、他でも2社ほど同様な対応をしてくれる商社様はありますが・・・

以前、会社で業績が顕著で表彰された方に副賞としてiPadとそれに付属するキーボードとペンシルが贈られることとなったのですが、この時iPad本体はスグに入手できましたが、付属するキーボードとペンシルが品薄で、私たちが一括して発注した商社様からは「いつになるかわからない」という状況でした。

取り敢えず2週間ほど様子見をしてたのですが、やはりいつになるかわからず、アップルストアなら定期的に入荷するが予約はできず、その時々で早い者勝ち、との話で「当社に入荷するのを待つしかない」という当事者意識に欠ける説明でした。

そこで、この「なんでも屋さん」の商社様に相談してみたところ
「わかりました。今日から毎日アップルストアに行ってみます」
と事もなげに言うのです。
「しかし、アップルストアは御社から近くはないでしょう」
と言うと
「会社からの帰り道の途中ですから、寄るのはそんなに苦にならないです」
とのことでした。

それから、約3週間弱の日に経った頃「きのう行ったら買えました!」と言って対象品が納品されたのです。

この時は、心の底から頭が下がりました。

この時から「なんでも屋さん」とは誰にでもできることではなく、誰にも簡単にマネできないことを指す言葉として敬意を込めて心の中でつぶやくようになりました。

tyoutatsumeister.hatenablog.com

しかし「全ての外部支払い案件は調達の発注システムを通じて」とリキんでも社外講演会を聴講するための前払い費用や電気・水道料金や電話代など、私たちの会社ではまだまだ対象にできていない費用が本当にた~くさんあります。

 

やること、やれることは一杯あるぞ~

M&Aなんかにも関与したいぞ~

そのための道のりは長いぞ~

という感じです。

 

年末の挨拶は無用 一方、年始挨拶は有効に活用する

日本には年末年始の挨拶という商習慣があります。
これに対して最近は「意味がない」とか「虚礼廃止」とか、受け手の私たち調達が避ける風潮がありますが、私は一概に「意味がない」とは考えていません。

「年末の挨拶」は話すことがなく無用

確かに礼節としては「今年1年本当にお世話になりました。」という思いを込めて年末に改めて取引先に挨拶に赴くということは理解できます。
しかし、現在はほとんど形骸化しており、
「カレンダーと手帳をお持ちしました~、それでは新年もよろしくお願いしま~す」
という感じで、ほとんど身が入っていないケースが多いように思います。

一方、この時期になると社内の製造や品質保証など他の部門のメンバーの中から
「A社のカレンダー来た?」とか「B社の手帳を来年も使いたい」とかの問合せやリクエストが来ますね。

私自身は「調達担当者は取引先様には、おねだりしない」ことを信条としていますので、いただいたら希望者には渡しますが、それ以上のことはしないようにしています。

しかし、それ以外に来訪された取引先様とは
「クリスマスはどうされてました?」とか「年末年始のご予定は?」など、どうでも良い話題くらいしか私からは思いつきませんので、ほとんどが立ち話で済ませています。

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新年の挨拶は情報交換の機会

取引先様のトップや幹部との面談
日常の仕事は両社の担当者が対応しており、これが順調なほど取引先様の幹部が私たちの会社に来訪するキッカケや理由がありません。

この中で「新年の挨拶」は絶好の口実となる訳です。

この機会を有効に使いたいものですが、実際はどうでしょうか?

例えば自社の幹部や上長の同席面談で
「いつもお世話になっております」→「こちらこそお世話になっております」
「お正月はいかがでした?」→「今年も息子夫婦が孫を連れてきて大変でしたわ」
→「そうですか、どちらも似たようなものですな」
「何はともあれ今年もよろしくお願いします」→「こちらこそよろしくお願いします」

こんな会話で終わっていませんか?

これでは全くの時間のムダで”意味がない”ですね。

これは取引先様のせいではなく、こちら側で有意義な面談にするための意欲がないことが原因だと私は考えています。

年始の挨拶で両社のトップが何を語ったか
年末時点の挨拶では、その年に起こったことを振り返るくらいの話題しかありませんが、新年の初出勤日に普通はどこの会社でもトップからの新年の方針が語られます。

これを調達担当者として良く聞いて理解した上で取引先様の幹部に対して「弊社では」と説明し、自社の状況や考え方を理解してもらうようにします。

そして、取引先様のトップが新年を迎えて何を語られたかも良くヒヤリングするのです。

取引先様の中には日本を代表する企業またはその系列企業があり、そうした企業のトップが何を語ったかは私にとって毎年とても興味があることで、その話をTVや雑誌という第三者からでなく、その企業の社員という当事者から解説付でその内容を聞く訳です。

当然、その取引先様との取引はしばらくの間そうした抱負や方針を踏まえた「もの言い」をして行きます。

受給状況の情報交換
実務では「新年始めにトップが何を語ったか」よりも調達担当者としては足元の受注動向と取引先様の在庫・生産体制についての情報交換の方がずっと重要です。

例えば液晶業界では、以前は米国のクリスマス商戦に向けた最終製品の作り込みのために部品メーカーでは秋に生産のピークを迎えるだけでしたが、その後に中国の購買力の高まりに伴い旧正月に向けた作り込みも加わりました。

この中で新年初旬はこの旧正月商戦に対する最後の追い込み時期になる訳です。

それに別の稿にも書いたように、この時期は既に新年度に向けた価格見直しに着手しており「お屠蘇気分がまだ抜けない」などと言っていられる状況ではない訳です。

tyoutatsumeister.hatenablog.com

 

新年度の価格、「初詣で神頼み」ではもう遅い

調達の実務に携わる前は、4月以降の価格の折衝は年明け早々から始めるのかな?と想像しており、初詣をする時は「折衝がうまく行きますように」とお賽銭を投げて祈願をするのかな、と考えていました。

しかし、実際は違いましたね。

日本では多くの企業が3月末決算で、4月からの新年度に向けた予算(経営計画)を遅くとも2月までには固めてしまいます。

ですから、これに対応して新年度の材料の購入価格の折衝は12月くらいから初めます。

これは自社スケジュールの都合だけでなく取引先様も新年度の販売計画の策定に入りますので、材料の販売単価の折衝を早目に開始しないと
「もう新年度の予算登録はしてしまった」
ということになり取引先様も動きづらくなってしまいます

とにかく「新年を期して気持ちも新たに」などというキッカケではなく、それまでの積み重ねの成果を価格折衝に結び付ける訳です。

もちろん私たちの会社の製品の販売環境は常に変化していますから、こうした変化に応じて価格の見直し依頼は適時仕掛けることは当然ですが、そうした場合は相応の理由も必要になってきますね。

新規材料の導入・実績化は2年くらいかかる

継続購入予定の材料であれば上記のスケジュール感ですが、こうした材料で大きなコスト低減を実現するのは一般的にはなかなか難しいですね。

大きなコストダウンを実現するなら材料切替えでしょう

しかし、使用材料の変更は品質の確認だけでも少量試作→量産試作を通じた購入仕様書の制定や、お客様への「4M変更申請書」提出→承認などの手続きを要するため、時間がかかります。

ですから、コストダウンをず~と継続するにはこうした材料切替えのテーマを何本も並行して推進すると同時に常に新規のテーマを模索する必要があります

これが、キツイ。

だから、私は初詣では新年度の価格折衝が上手く行くように、ではなく
「新しい切替えのネタがテーマとしてキチンと検討の軌道に乗りますように」
と祈願します。

 

尚、年末年始は日本の以前からの商慣習で「ご挨拶」の来客が多いですね。

これに対して最近は「意味がない」とか「虚礼廃止」とか、受け手の私たち調達が避ける風潮がありますが、私は一概に「意味がない」とは考えていません。
それについては別の稿で。

 

ソフトウェア開発や建築工事案件の見積評価、工数単価の確認を

工数単価は人工費用とも言い、メーカー様の社員1人の1日当たりの人件費のことです。

以前別の稿で装置の見積評価をする場合のことを書きましたが、こうした工数単価を基に見積評価をするのはソフトウェア開発や建築工事案件でも良く見られますね。

tyoutatsumeister.hatenablog.com

一方、こうした案件でも明細がなく「〇百万円/一式」と1行しかない見積書も良く見かけます。

これは、取引先様から「工数単価×時間=合計金額を基に値切られるのは納得できない。あくまで成果物で評価をしてほしい。」という思いによることは理解できます。

しかし、私は常に、取引先様は誠実な金額を提示している、と性善説で考えてますので、
調達担当者として提示金額は誠実なものであることを理解したい。
と説明して、工数単価の提示を求めます。

ソフトウェア開発の場合

特にソフトウェアの業界では「単価×工数の計算・評価という悪弊からの脱却」を標榜されている話も聞きますが、この「単価×工数」による見積提出依頼は、私たち調達部門が折衝で優位に立つために作ったルール・土俵ではないかと思っています。

しかし、これは私たち発注者側が一方的に有利になることではなく、受注したい取引先様の側でも上述したように見積金額の透明性・妥当性及び値引金額の提示による受注意欲を数値で現した書類であると思っています。

一般的に工数単価の提示は職位によって
プロジェクトマネージャー(PM)、システムエンジニア(SE)、プログラマー(PG)
の3つがあります。

その中でもプロジェクトマネージャーの単価は高いのですが、その上で会社によって人によって大きな差があり、
「あの会社の〇〇さんは月3百万円なのに別の会社の〇〇さんは月5百万円する。」
などと言うことは良くあります。

発注先の選定で工数単価の安い方にした場合は良いですが、総合評価の結果により高い方を選定した場合でも価格折衝の席上で
「貴社は他社に比べ工数単価が高いので相当の価格見直しを」
とは安易に申し入れできませんね。

これに対しては
「成果物には自信がありますので、内容を見てご評価をお願いします。」
などと言われるのがオチです。

私はこの時点ではあまり深追いはせず、その案件の成果に対する評価を次回の価格折衝時にキチンと反映させるようにします。

ただし、成果物の評価が低い場合は「この次」はないことも多いですね。

建築工事案件の場合

一般的には人工単価は提示されず、
「施工費〇〇¥+材料費〇〇¥」とか例えば「1階空調ダクト保温工事(材工共)〇〇¥」などを見積表記では良く見かけます。

これに対しては「この部分の作業員は延べ何人で計画されてますか?」と問合せますが、項目が多いと煩雑になり取引先様の負担になります。

そこで、私は社内の担当者が工事内容を検討するために取引先様から入手した作業日程表に作業人員計画を盛り込んだ資料をもらうようにしています。

以前、ある設備の除却に伴う解体工事の見積評価をした時に、この人員計画表を基に見積評価をしたところ、見積では各ユニット毎の解体費用を積算して合計金額を出しているのですが、計画人員×人工費用で計算したところ大幅に安価な評価金額となり、実際の価格折衝でも▲50%近い金額で決着することができました。

いつも空調配管の工事をお願いしている取引先様からは
「例えば250Φで10mの配管を@単価×mで見積評価されても直線配管できる場合と梁などで迂回が多い場合では手間・時間が全然違う」という話を聞きます。

ですから
やり易い仕事=作業人員工数が少ない
やり難い仕事=作業人員工数が多い
という当たり前のことになります。

 

ところで、建築工事案件の見積評価では作業員の方々の人工単価は安いですね。その評価単価がその通りでなくても私たちは仕事とは言え、そこから更に価格折衝をする訳です。

作業員の方々はゼネコン・サブコンからすると下請け・孫請けとなり、その実際の支払いを私たちからコントロールすることはできませんが、もう少し手厚くすることはできないだろうか、なんて思ってしまいます。

でも、それこそ無責任な話ですね。

 

調達の業務課題には様々な対応があり、何が正解ということはありません。

その中で、このブログが対応策の検討やセカンドオピニオンとして少しでもお役に立てれば幸いです。

また、営業職の方々にとっても調達担当者の考え方を理解することで取引先との良好な関係を築くための参考となれば幸いです。