なんで、価格折衝ってするの?
調達担当者としてのの社内評価をあげるため?
営業職から配置転換で調達業務に携わり始めてからいつの間にか20年近く経ちました。
当初から調達の業務とは、価格折衝でより多くのコストダウンを図ること、とはわかっていましたが、営業時代に訪問するお客様の窓口の方から「自分の給料分は稼がないと」とか「それでは私の顔が立たない」などと言われると「アナタのために値引きするのではない」という強い違和感があり、あんな調達担当者にはなりたくない、という思いがありました。
そこで、営業マンから見て理想的な調達担当者とはどんな人なのかを考えてみました。
一切値切らない人?
「大阪では値切って買うけど、東京では一切値切らない一方、気に入らなければ黙って他から買うので営業マンとしては東京の方がこわ~い」という話を聞きます。
そうなのです。生粋の関東人である私にとっては、本当は値切って買うなどという面倒なことはイヤで、気に入らなければ黙ってヨソから買いたいのです。
しかし、配属されたのは東証一部上場企業の50年以上歴史がある調達部門です。自社の製品製造に無くてはならない特定の直接材料の調達業務ですから「気に入らないのでヨソから買います」などと簡単に言う訳にはいきませんし、年々製品売価が下がりますから、値切らない、ということもできません。
そう考えると価格折衝は、自分の給料分を稼いだり、自分の社内的な顔を立てたりすることではなく、自社の個々の製品をより多く継続して販売するためのコストダウンが目的だということがわかりました。
そして、取引先様にとっては自社の材料を使用した製品をより多く生産してもらったり、他の材料メーカーに切り換えられることを防止する効果があるのです。
価格折衝は取引先のためでもある
だとすると、営業マンから見て理想的な調達担当者は、値切らない人、ではなく営業マンの会社の売上の維持・拡大に貢献する情報をくれる人、ということになります。
ところで、調達業務を始めた頃「明日我が社は潰れるかもしれないという危機感を持って価格折衝したらどうだろうか?」と考えたことがあります。
しかし、実際に倒産の危機に瀕した場合は取引先様はもうモノは売ってくれない、または現金引換えなど厳しい条件での取引となるでしょうね。
そんな状況になってからでは取返しがつきません。
私は取引先様に最もしてはならないことは、自社が倒産すること、だと思っています。
実際には、こんなネガティブな危機感ではなく、営業マンには取引先様の売上拡大のため総力をあげた協力を得られるよう自社の事業戦略や生産計画を日頃からできるだけ丁寧に説明するようにしています。
しかし、こうした情報交換はいわゆる世間話的な雰囲気になるのに対して、価格折衝はその結果がお互いの会社の利益に直結するため一転して真剣勝負になります。
そして、私はその価格折衝を通じて目の前のその取引先様が私たちの会社の取引先としてふさわしいかどうかを改めて確認する場であると考えています。
なぜ「これが精一杯の価格」なのかを追求する
価格折衝をすると、必ずどこかのタイミングで取引先様から「これが精一杯の価格です」という発言が出ます。
購入品のコストについては基本的に相対取引ですので、例えばコスト構造分析で導き出した金額を提示して論破したとしても、それだけで両社の合意に至るということはありませんね。
一方、精神論で「これが精一杯」「いや、そこを何とか」を繰り返すだけでは次に繋がる会話にはなりません。
次に繋げる会話のパターンはいくつもありますが、例えば「あと▲3%の価格協力をお願いしたい」と打ち出したとします。
すると、一般的に営業マンは自社にこの話を持ち帰り、検討の上で回答をしてくれます。
この回答で「現状の歩留まりが・・」とか「発注Lotのサイズが・・」とか「品質の項目で閾値が・・」など、対応が厳しい理由が具体的に説明されます。
私が考える価格折衝を行うメリットはここにあります。
もちろん提示された理由については鵜呑みにせず、個々の理由に対して踏み込んだ分析・考察をした上で、この時点での価格折衝は決着させます。
しかし、こうした具体的な理由は一般的な理論値ではなく、取引先様から出た言葉ですので、その後の両社の取引上の取り組みの大きな指標として活用できます。
あとは私たちの腕の見せ所です。
自社製品を拡販するためコスト・品質・納期など少しでも市場競争力を強化することが目的なのだ、ということを改めて認識した上で、社内関係部署と協議して、どこか妥協できる余地がないか?あるなら具体的にどこまでか?検討し、その後の協議課題とします。
また、それまでの取引状況やこの価格折衝の結果から「やはり、この取引先様は私たちの会社の取引先としてふさわしくない」と判断し、取引停止に向けて水面下で動き出す結果になることもあります。
上市したのが古い品に使用されてる材料の取引は長い時間が経過しており、その中で現状の取引条件で折り合っているため、妥協できる余地などあまりないかもしれませんね。
しかし、自社の新製品にも採用されるとか、製品は同じでも新たな用途やお客様に採用されるとか、取引環境は常に揺らいでいます。
個々の材料コストに影響する要因と大きさを把握し、それに関連する情報に常にアンテナを立てておく、そしてそれは必ず実績に結び付く、と信じて取り組みましょう。