調達魂

~日々奮闘する資材調達・購買バイヤーに贈る言葉~

取引先様の現場に直接語りかける

「何のために仕事をするの?」

この質問には、まず「生活のため」という答えが返って来ると思いますが、同じ金額の給料がもらえるなら少しでもやりがいのある仕事をしたいと考える方が多いでしょう。

実際には、世の中には様々な業種・企業があり給料や仕事の内容を聞くと「あっちの会社の方がいいかも」と思ってしまうことが良くありますね。

それでも多くの企業が事業を継続できているのはそこに働く方々がおられるからで、その多くはその企業で働くことに何らかのやりがいを見出しておられるからだと思います。

その「やりがい」は人によって「やればやっただけお金になる」とか「あの人に認められたい」とか様々だと思いますが、私はモノ作りのメーカーを就職先として選んだのは自社の製品またはそれが使用された最終製品を通じて少しでも社会の役に立つ仕事に携わりたいと考えたからです。

 納入品は取引先様のモノ作りの総合力の成果

 取引先様で実際にモノ作りをしているのは現場の方々です。
しかし、それぞれ会社の現場のモノ作りの考え方や姿勢はそれまでの歴史やトップの方針や組織環境が絡み合って育まれた企業風土というものがあり、品質打合せなどで協議をすると本当に様々であることを感じます。

しかし、会議や書類で何を言ったり書いたりしてもメーカーであれば納入品がその会社の総合力の成果です。

例えば、液晶関連で品質仕様書を締結して購入を開始した材料で規格に定めのない新しい不具合モードが発生し、その都度そのモードについての原因と対策を協議して仕様書を改定するのですが、次々に新しい不具合モードが発生して困ったことがあります。

何が困ったかというと取引先様は営業担当者から「ウチは仕様書の規格内の製品を納めているのに、規格にない不具合モードが原因で返品したいと言われても困ります。」と言われてしまうのです。

このコメントはこの文脈だけなら筋が通っていますが、取引先様は「使い物にならない製品」を作っているのが現実なのです。
目先のお金のやり取りは大事ですが、このままではお互いにその業界で生き残ることはできません。

しかし、品質打合せをしても取引先様からは「仕様書通りの製品を納めるのに全力を尽くします」などという説明の繰り返しで・・・

どうしましょうか?

本当に困ってしまいました。

 メーカーとしてのプライドに訴える

一般に営業部門は自社の損益に直接影響する交渉事を担っており、この取引先様の場合も「仕様書にない不具合モードで返品を要望されても困る」という立場で、私たちの会社では以前から困った取引先様というイメージが定着していました。
しかし、設備・技術ともに代替えできる企業が見い出せない状況でした。

「あの取引先様はそういう会社だ」と決めつけるのは簡単ですが、何とか道は開けないかと考えたところ、それまで取引先様の現場の方々の顔が見えてないことに気づきました。

そこで考えたのは私たちでも持っているモノ作りに対するプライドをこの取引先様の現場の方々も持っているはず。だから、直接私たちの思いを伝えてみよう、と考えたのです。

具体的には私たちの会社の品質保証部門と製造部門で現場を熟知しているメンバーと一緒に取引先様に訪問し、現場の方々と同席して私たちの会社の状況を説明しました。

つまり、私たちも自社のお客様から製品について仕様書に規定のない指摘を受けることは良くあることで、もし、これが言いがかりであればそれなりの対処はするが、基本的には最終製品を買ったお客様の満足度を向上させることで、過去からこうした努力を業界全体でしてきたお陰で液晶を使った製品の用途や数量が拡大してきたこと説明した訳です。

そうすると取引先様の現場の方々からも「満足してもらえるものを納品したいが、設備の老朽化や設置環境の問題でやなかなか成果に繋がらない」という説明でした。

結果的には、この時の打合せをキッカケとして取引先様のある職長の立場の方が、多分納入した製品がお客様の満足を得ていないことが残念だったのでしょう、それ以後は仕様書に規定があろうとなかろうと大変な熱意を持って不具合の芽を潰すことを徹底してくれました。

これに対して私たちの製造部門も同じように設備の老朽化や設置環境の問題を抱えてしましたからその熱意に応えて装置の清掃作業の徹底の度合いや製品の社内検査の方法や判断基準などかなり親密に意見交換を実施しました。

一方、私たち調達部門からの働きかけもありますが、この取引先様のトップが自分の会社を鍛えたいという考えから、私たちの会社から出る厳しい要望に応えて行くこと、という方針の打ち出しもありました。

こうして、その後この取引先様は別の稿でも書きましたが、キーマンとなった職長さんを中心に品質改善は着実に成果を上げ、その結果対象材料について業界の雄として私たちの会社以外との取引も順調に拡大し、工場も新設されています。

 

tyoutatsumeister.hatenablog.com

 

調達の業務課題には様々な対応があり、何が正解ということはありません。

その中で、このブログが対応策の検討やセカンドオピニオンとして少しでもお役に立てれば幸いです。

また、営業職の方々にとっても調達担当者の考え方を理解することで取引先との良好な関係を築くための参考となれば幸いです。