「え?そんなものまで」を調達する
私が調達業務をする上での基本方針は
「調達業務を通じて自社の企業競争力の維持・向上を図る」
というもので、これには 何を調達するか という枠は一切設けていません。
その中で、私がよく他の方々に自慢げにお話するのは「人を調達した」ことです。
「人を調達」では人身売買みたいで人聞きがよくない表現ですので「人をスカウトした」と言い換えますね。
あの当時は、一緒に仕事をしていた品質保証の課長さんがよく「ウチの品質保証部門には人材がいない」とボヤいていました。
その方も社内の他の方々から「あの人はチョット」と言われており、多分ご本人もそれを知った上で「人材がいない」と自分の組織を採点していたのだと思っています。
そうした中で、私たちの会社の製品の表面処理をお願いしている外資系の取引先様が事業戦略の見直しにより日本のある大手企業に売却されることになりました。
この取引先様は社員数50名程度の企業でしたが外資系ということもあり開発・生産技術・品質保証それぞれ1名づつ「できる人」の責任者がいました。
特に品質保証の責任者は品質工学の専門家で度重なる品質打合せの中で、例えば
「この表面処理の歩留りが悪かったLotは、元になる貴社の部品Lotに〇〇の傾向があったのではないでしょうか?」
というような指摘をされることがあり、
「こちらから情報開示してないのに何でそこまで考察できるんだ?スゲ~な」
と品質保証課長だけでなく、製造部門のメンバーからも評価の高い方でした。
そこで、その取引先様の企業譲渡で一旦解雇されるその機会に私から品質保証の課長に
「あの方をウチに引っ張ろう」と持ちかけたのです。
品質保証課長は早速「ウチには人材がいない」とやはり悩んでいた上長の品質保証部長に話を持ちかけ「ぜひ、よろしくお願いしたい」というコメントを引き出してきました。
ここまで準備を整えた上で初めて私から相手先ご本人に
「私たちは貴方を弊社に是非お迎えしたいと考えています。」
と電子メールしたのです。
その後、この話はトントン拍子に進み、初出勤日の朝は製造部門のメンバーも集まって
「我が社へようこそ!」とこの方をお迎えした日のことは今もよく覚えています。
この話は今から10年以上前のことですが、その後この方は私の目論見通り順調に昇進し今では品質保証の統括部長になっています。
この方は肩書が重くなっても仕事に対しては相変わらずヒタムキで、今でも私からの荒唐無稽?な提案もキチンと受け止めてくれます。
実は、このような私からの提案をキチンと受け止めてくれる然るべき立場の人を得ることが「私の目論見」だったのですが、それにまつわる話はまた別の稿で。
競合他社の製品をサンプルとして入手したい
調達の仕事をしている方々の中には「私の方がもっとユニークな経験をした」という方も多いと思いますが、ここでは私の他の「え?そんなものを」という経験を紹介しますね。
研究開発の検討の中では開発中の試作品と競合することが予想される既存の他社品を比較するために入手したいという依頼がけっこうあります。
今はネットで簡単に購入できますが、アマゾンやモノタロウで購入できる汎用上市品ではない場合は、メーカーや特定の商社のネットのページにアクセスする必要があります。
しかし、こうした場合は競合品の開発を検討している自社が購入したという痕跡はどこにも残したくない訳ですから、このような案件に日頃から対応をお願いしている既存取引様の商社に代理購入を依頼します。
それでも建築業界向け製品の場合は明らかに畑違いの商社からの購入要望では奇異な感じを持たれてしまう可能性があるため、工場建屋の補修・改造でいつもお世話になっている取引先様に事情を説明して代理購入をお願いしています。
更に一風変わった依頼
こうした中で、ある自動車メーカーの特定車種のフロントウィンドウとリアウィンドウを入手できないか、という依頼がありました。
この時はさすがに少し悩みましたね。
で、結局思い付いたのは社有車のメンテナンスをいつもお願いしている自動車修理工場を総務部門から紹介してもらい、そこを通じて発注し、目的のものを難なく入手しました。
調達で業務をする中で通常では発生しない「妙なもの」の入手依頼に対応することはなかなか面白く「調達できないモノはない」と豪語したいのですが、韓国の現地しか販売していない製品とか、数億円もするような装置の専用の消耗品とか「無理です」と白旗を上げた経験は何度もあります。
でも、どんな時でも簡単にはギブアップしないゾ~