調達魂

~日々奮闘する資材調達・購買バイヤーに贈る言葉~

調達戦略は自社の事業戦略・販売戦略を踏まえて

調達の方針というと、一般に「購入金額の▲〇%ダウン」とか「BCP対応の確立」とか「新規材料・メーカーの探索による新製品開発への寄与」それに「法令遵守」と言ったところでしょうか。

これには「何のために?」という目的が書いていないため、私はひねくれているのか常に強い違和感を持っています。
つまり、こうした方針に基ずく戦略は、調達部門という組織のためのもので、特にコストダウンについて取引先様に対応を求めることは、いわゆる「調達の顔を立ててほしい」と要望することと同義に思えてしまうのです。

私たちが所属する会社がメーカーであれば、今期の、または来期の事業戦略や販売戦略があると思いますが、調達の方針というなら、こうした事業戦略や販売戦略と協調した調達戦略の立案と実行という方が抜群にシックリします。

それを踏まえた上で調達戦略を立案するには、会社としての大枠の方針などよりも、それをブレークダウンして個別の製品戦略まで落とし込んだものがあればより良いですね。

例えば、「この新製品を拡販して市場シェア+10%を達成する」とか具体的目標があれば、戦術として製造原価を▲〇%下げるなどの目標設定して、それに向けて製造・技術・品質保証、場合によっては営業部門を通じてお客様に品質規格の閾値を引き下げる交渉をして良品歩留まりを底上げするなど各部門が一体となって取り組むことができます。

調達戦略が事業戦略や販売戦略とリンクしないと

私が調達業務を開始してスグの頃、翌期の調達予算を低減するために担当していたダンボールメーカー様にその時の足元で発注数量の多いサイズを中心に価格見直しを求め、価格改定をしたことがありました。

これは、今この数量が流れているのだから少なくとも翌期も同程度の数量が流れるだろう、という考えからでしたが、残念ながらそうはなりませんでした。

原因は、何でそのサイズが今多いのか、という背景を知らず、それを知るための努力もしなかったことです。

一方、当時の別の経験では、自社の製品がお客様のクリーンルームまたはそれに準ずる環境の製造現場で使用されることが多くなったのに伴い、梱包材料が広義で紙製からプラスチック製に大きくシフトしたことがありました。

この時は、このトレンドを特にある取引先様に繰り返し説明し、お客様に評価をお願いする自社の試作品用の梱包材料を超短納期(翌日納期)で良くお願いをしました。

これには取引先様の現場にも万全の体制で対応いただきましたが、お陰でこの取引先様の私たちの会社への売上は10倍くらいになりました。

 

事業戦略や販売戦略の情報は誰かが教えてくれるのを待つのではなく、自ら情報を取りに行く、のが基本だと一般に言われています。

確かにその通りでしょう。

しかし、事業部の責任者は一般の作業者なども踏めた社員全員に「今どんな状況なのか、そして何をしようとしているのか」を本当に分かり易く説明する責務があると私は思っており、このような責任者の下では本当に事業部が一丸となって突き進むことができます。


私は、このような組織で調達業務の経験ができました。
今では、これは幸運だったのかな、と思っています。

 

納期トラブル、取引先様の回答納期を鵜吞みにするのはキケン

納期トラブルが発生する原因は、自社の製品が突然追加受注した場合のようなハッピーパターンや、突発的な品質トラブルの発生による緊急の代替品の生産とか自社や取引先様の関係者のヌケ・モレ・勘違いによるものなど様々ですね。

しかし、どんな原因にせよ私たちは企業としてお客様から受注した製品を納期通りに納品する責任を負っており、この責任を常に果たすことがお客様から自社に対する取引信頼性の基本の一つとなります。

 まず「納期通りの納品」に全力を尽くす

長年に亘り常に納期通り納品する、ことは受け手の私たちに当たり前のことに見えても、個々の製品のメーカー様や商社様にとっては、一般的に年に1度や2度は危ないことがあるようです。

しかし、取引先様は私たちに対して「納期については何も問題はありません」と涼しい顔をして相対するのが一つの美学のようです。

私は営業職だった時代に、デリバリー業務の中でこうした危ないことを何度も経験していますので「品質・納期で何の問題も発生させない」ことを継続する裏側では大変な努力をされているはずだ、と思っています。

ですから日頃の「いつもお世話になっております」という挨拶は、面談でもメールでも、型通りの挨拶などではなく、いつも心からのお礼として申し上げています。

 

という訳で、自社からお客様に「納期が遅れます」という連絡を差し上げることになるのは相当なことです。

しかし、努力はしても最終的に納期が守れない時に、その悪いニュースをお客様に伝えるのが受注納期直前であれば、そのお客様がその先のお客様への対応する時間が大きく制約されてしまい、より問題が大きく・広くなってしまいます。

そこで、何らかの「危ない事態」で納期が守れないリスクが発生した場合には、そうした状況を製造部門に情報提供します。

製造現場はそんなにヤワではありませんので、このような状況の場合はたいがい製品在庫や材料在庫を持っているため、例えば「余裕はあまりないけど、来週月曜の昼には必要」なとのコメントをくれますので、これを取引先様に伝え、その後状況をフォローします。

次回ロットの納入日はいつ?

大問題となるパターンの一つとして突発的な品質トラブルでロットアウトが発生した場合がありますが、未経験のモードでの品質トラブルを想定すると話がややこしいので、ここでは取引先様の製造装置のトラブルに起因して発生した問題と仮定します。

まず、製造部門に「この材料が遅れそうですが、大丈夫ですか?」と投げ掛けたところ、「その材料ならしばらく大丈夫」という回答を得た、なんてことでは全くダメですよね。

製造部門への連絡には必ず「〇〇が原因で、納期が遅れて〇月〇日になりそうだ」という情報が必要ですが、この時に取引先様からの連絡をそのまま鵜呑みにして納期を社内連絡してしまうのは大変危険です。

連絡を受けた社内では、この納期を前提にしてお客様へ製品の納期回答をします。

ところが、取引先様からの提示納期が「装置の交換部品の納期が通常5~10日かかるが、うまくいけば3日なので」とか「使用する材料が全て材料メーカーに在庫があれば」とか、その時点で根拠のない希望的観測に基いたものであったとしたらどうでしょうか?

怖ろしいですね。

納期遅れを引き起こした上に、遅延した納期も守れなかった場合、社内での私自身や取引先様に対する信頼を裏切るだけなら「身から出た錆」ですが、それが原因してお客様から自社への信頼を大きく損なってしまったら大変な損失です。

こうした場合、納期遅延の連絡時に提示した納期を最低限守り、その上で1日でも2日でも前倒し納品されれば信頼性へのダメージはそこまでで食い止められる、と私自身は考えています。

 ですから、その時点では希望的な観測はできるだけ排除して現実的な納期はいつなのかの情報をヒヤリングし、例えその納期見通しが、必要納期との乖離が非常に大きく、非現実的に見えても、それが現実である、と考えて社内には情報連絡します。

こうして希望的観測を除外し、積み上げた事実で取引先様と検討・協議することで良くも悪くも納期の着地点が見えてきます。

実際には、ここまで来るとその納期を前提として対象品の生産日程なども組まれるため「これ以上少しでも早く」ということは少なく「今の納期は絶対に守ってほしい」という状況になることが多いですね。

 

しかし、調達実務をしていると、年間通じて品質・納期に安定して対応をいただいている取引先様とは、何も問題が発生しないため面談の頻度・密度が低く・浅くなってしまい、3か月~6か月に一度くらいの頻度で何らかの問題を引き起こす取引先様との面談の方が頻度・密度が高く・深くなってしまうことにはいつも「なんだかなぁ」と思ってます。

 

異物混入、入って不思議ではない物質と入るはずのない物質

「異物混入」というのは、自社の製品でも納品された材料でも悩ましい問題で、現場の方々を中心にひたすら執念を持って継続して取り組むしかないようですね。

これには、購入品質仕様書に定めた規格から外れてしまったという品質トラブルと、地道な努力を重ねて品質の向上を図る改善活動の2つに大別できると思います。

 しかし、どちらにしても普通は品質保証部門が主体になって、混入した異物の材質分析とその分布などを評価し、その結果を取引先様に情報提供し、対象物質が混入した原因や経路の究明を依頼します。

ところで、今はまず聞きませんが、以前はたまに「虫」が混入することがありました。

これは、他の異物が混入していた場合に比べてイメージダウンは大きいですが、調達業務に就いてから現場の製造課長などに話を聞くと

「虫は自分で動くからなぁ」とのことでした。

なるほど、
通常の異物は重力で上から落ちてくるか、材料が工程で接触するガイドやロールから転写するため、現場では製造にかかる前にこうした部分を一生懸命清掃するのですが、何らかの経路で現場の空間に入り込んだ虫は勝手に飛び回ってしまう訳で、手強いですね。

ある時「入るはずのない物質」が検出された

という訳で「虫」は、突発的に入ってしまうかもしれないものです。

この中である時、異物分析をしたところ購入材料から微量のアルミ粉が検出されました。

これは、対象材料の通常工程では「入るはずのない物質」でしたが、品質保証部門の担当者は検出したアルミ粉は大きさも数量も購入品質仕様書の閾値未満であったため、問題視していませんでした。

しかし、材料メーカーの製造装置のどこかのガイドまたはロール部分で回転不良が起きているのではないかと私は考え、放置することができず、メーカーに調査依頼をしました。

このメーカーは私たちの会社より規模の大きな企業でしたが、やはり妙だと思ったのでしょう。依頼から2か月ほど経過した頃、報告書を受け取りました。

内容は、検出されたアルミ粉はそのメーカーで混入したものではなく、更に上流の原材料の精製を行っている工場(インドの会社と聞きました。)で混入したもので、原因を特定した上で対策は完了した、というものでした。

おお、そこまでやってくれたか~
でも、まぁ、責任ある企業ならやるわな。

というのが率直な感想でした。

もの作り、というのはサプライチェーンの各段階での誠実な努力の積み重ねがあって初めて継続できるものだと思っています。

その中で、私たち調達はそうした努力を促したり、引き出したりすることも重要な仕事だと思っています。

 

検収の可否判断は迅速に!

あくまで「可否判断」を迅速にすることであって、月末になって納品物の良否を確認せずに何でもかんでも即検収処理する、ということではありません。

確かに「下請法(下請代金支払支払遅延防止法)」の禁止事項の一つ「支払遅延」では「給付を受領した日から60日以内」とあり、納品物の確認・検査に要する時間には関係なく、60日以内に支払いを行う必要があります。

 実際には、中小の規模の取引先様への支払条件は「検収月末〆翌月末支払」とする場合が多く、納品物の確認・検査に時間を要したため、検収の可否判断が当月の締日に間に合わず翌月になった場合でも、60日以内には支払処理を完了できることになります。

しかし、どんな場合でも検収の可否判断は迅速に行うことが基本です。

 ですから、調達担当者は月末になると、この検収に漏れがないよう社内の各部署にフォローする業務で結構忙しいことが多いですね。

取引先様が大手であっても中小であっても支払いを常にキチンとすることは取引信頼性の根幹に関わることですので。

以前、東アジアには、装置を納入し試運転を完了しても検収を挙げてくれない(=代金の支払処理に着手してくれない)企業がある、という話を聞いたことがあります。

とんでもない事だと思いますが、これは取引先様への迷惑というだけではありません。

帳簿上、買ってないものを使用して製造や開発はできない

製造業は、基本的に材料を購入し、それを組合せて加工した製品を販売するものです。

この中で、実際には納品されているのに社内で計上していないものを使用した製品を出荷して売上をたてた場合はどうでしょう。
明らかに矛盾しており、これでは税務監査に通りませんね。

上市している製品であれば、このようなことのないよう社内システムが確立されていると思いますが、試作用の材料であったり、製造装置ではどうでしょうか。

試作品の中でも、量産試作品などは有償でお客様と取引をすることが多いと思います。
その試作用の材料は通常製品用の発注システムとは別の流れで発注されるケースもあると思いますが、調達部門から見て、キチンと管理された状態になっているでしょうか?

製造装置の場合、上記の海外企業のようなことはなくとも、試運転の結果、稼働はできるが細かな部分で事前に取り交わした仕様書の内容を満たしていないため、検収保留としたにもかかわらず、その装置を使用して製造を開始してしまったことはありませんか?

私は、このように仕様を完全には満たしていないが、自社都合で装置の利用を開始したい場合には、取引先様から「仕様を完全に満たすまで責任を持って対応する」という念書を取った上で検収処理をし、装置の使用を開始させるようにしています。

 

調達マンは取引先様に自社を売り込む営業マンでもある

取引先様には自社に対して、品質・価格・納期など全ての面で会社としての総力を挙げた対応・協力をしてもらう必要があります。

一方、取引先様にとってもこうした対応をすることは材料が使用されている製品の販売量が増加することで取引金額(売上・利益)が向上することを期待しているからです。

しかし、これは取引先様のトップから現場の担当の方々まで、頭でわかっている程度では通り一遍の対応に終始してしまいます。

それを、熱意を持った取り組みに変えていくことが調達の重要な仕事だと思っています。


では、そのためにどうすれば良いでしょうか。

 

私は、営業マンのように自分の会社を売り込むことだと考えています。

一般に製造部門や品質保証部門の方々は「良いモノを納期通りに」までは考えてますが、価格も含め「更に〇〇の対応を」という場合に、取引先様の担当の方に要望しても、それだけでは熱意を持った迅速な対応を引き出すのは難しいと思っています。

私たち調達部門は担当の方々の上長、更に幹部やトップに直接状況を説明し、理解を得ることで、取引先様から全社を挙げた対応を引き出すのです。
当然この中では自社の幹部と取引先様のトップとの面談をセットするなどの対応があり、こうしたことを企画する調達部門の果せる役割は大きいと思っています。

もちろん基本的には取引先様から見て自社に十分な魅力があることが前提ですが、こうしたことは日頃から私たち調達担当者が、できるだけリアルタイムで具体的に、そして丁寧に状況を説明することが欠かせませんね。

「弊社の方針は、貴社について行くこと」という方針の取引先様がある

実際にこのような方針を打ち出された取引先様が数社ありました。

これには、私たちの会社から出る厳しい要望に応えて行くことで自分の会社を鍛えたい、という考えからのものでしたので、この取引先様に対しては、お客様の要求(自社の要求ではない)は脚色せずに全てストレートに伝えて対応を依頼しました。
逆に、そうしなければ失礼ですものね。

結果的に、この方針を打ち出した取引先様はどちらもその対象材料の業界の雄として私たちの会社以外の取引も順調に拡大し、その結果として工場も新設されています。

しかし、時を経て事業環境変化などで、こうした業界の雄となった取引先様の材料は価格が高止まりしているという印象を持つことになります。

ですから、私たち調達部門はこうした取引先様との信頼関係を維持しつつ、常に水面下では新規の代替え材料の調査や育成をしています。

これが調達マンの性というものでしょうか。
何しろ、私たちの会社が生き残って行く必要があるのですから。

 

材料廃番の申し入れと「4M変更申請書」

選択と集中」の風潮の中で

取引先様から、生産・在庫の効率向上を目的として製品の統廃合の申し入れを受けることが多いですね。

この申し入れは、窓口の営業担当者から、まず口頭で説明(打診)を受けることもありますが、いきなり書面で提示されることもあります。

何しろ、自社でもお客様に対して同じように品番の統廃合の依頼をしているくらいですから、ケシカランとか頭から取り合わない、という訳にはいきません。

こうした申し入れには調達担当者個人として「それは通るかな~同じ品番を使用している他社の状況は?」などと取りあえずコメントしますが、それでは取引先様社内に対し説得力が十分ではありませんから、基本はまず社内関係者と情報共有した上で、改めて自社と対象製品のお客様の状況を連絡・説明します。

しかし実際は、よほど特殊な材料で代替品がなく、用途が社会的に必要なものであれば「供給責任」を前面に出して、廃番そのものの撤回を働きかけますが、ほとんどの場合は使用材料の切替え検討に入ります。

この段階では申し入れの背景・理由によっては、検討に着手する・しない、の判断に時間を浪費してしまうと後々供給不安に繋がるリスクもありますので。

「4M変更申請」よくある理由

調達業務に携わる方であれば「4M変更申請書」は知ってはいるが、見たくはない、という方が多いと思います。

品質仕様書を定めた既存材料を対象にMan(人)Machine(製造装置)Material(材料)Method(製法)の4つの内で何か変更する場合の事前申請書類で、各変更要素のアルファベットの4つの頭文字「M」から来ているものですね。

標題は「選択と集中」という風潮の中で、としましたが、実際の申請理由はもっと多彩で例えば

  1. 製造装置の老朽化が激しいため、不測の長期故障に備え新鋭機に入れ替える。
  2. ベテラン作業者の退職や人手不足により自動化など効率化を図る。
  3. 使用原材料が入手困難となったため、安定入手できる他原材料へ切り替えたい。
  4. そして、冒頭の生産・在庫の効率向上を目的に製品の統廃合を図る。

 このように、対象材料の今後の安定調達に大きな不安がある場合も少なくありません。

切替え完了までに必要な現行品の在庫量

一般に、対象材料の切替え検討では自社内の特性・品質の検討・確認を経て、それを対象製品のお客様に提出して良否の判定と変更のご承諾を得る必要があります。

この検討は、変更申請した取引先様の状況が、既存の設備や体制を残したまま切替え検討をするランニングチェンジの場合は、粛々と進める、こととなります。

一方、申請時の取引先様の計画が、例えば「6か月後の〇年〇月で製造装置を解体し跡地に新鋭機の設置を開始する」などという場合は、取引先様の営業担当者から「製造装置の停止までに現行品の在庫をどれくらい準備すればよいでしょうか?」というような問合せを受けます。

「そんなの知るか!」とは言いません。

回答は、製造を通じて自社の営業部門とも協議しますが、私の経験では「在庫2年分」が相場かな、と思っています。

このような申請は、取引先様都合によるもので、積み上げた在庫について最終的に引取り義務は一切負わないことを前提としていますから「そんなにたくさんですか」と言われてしまうことがあります。

しかし、こうした検討は、順調に行ったとしてもかなり時間がかかります。

私たちの製品のお客様のご承諾まで考慮すると1年などアっという間に過ぎます。

自動車などに比べ、電気製品は確かに新製品が次々に発売されているかもしれませんが、各製品にはそれまで使用してきた部材の特性・品質を前提として設計されており、また補修用の部材も必要ですので簡単ではありません。

 

以前、印刷を本業とするある大手メーカー様が直接私たちの製品のお客様に部材のPRをしたところ、めでたく採用されたので私たちの会社にその部材を組み込んでそのお客様に製品販売をしてほしい、いうことがあり、製品は流れはじめました。

いわゆる「スペックインできたので、これを使ってください」というパターンです。

ところが、約2年後に「事業の採算見通しが立たないので、この製品は撤退する」との方針が打ち出されました。

発端はこの取引先様が独自でスペックインした訳ですから私たちのお客様には独自に説明してご承諾を得ることはもちろんですが、その上で、まだ対象の製品は流れていましたので、撤退に当たり2年分以上の在庫積み増しを要求しました。

ところが、印刷が本業であるためか社内のISOの規定で「正式注文がなければ製造対応できない」と言い出したのです。

国の法律であれば従いますが、私企業が勝手に定めた社内規定に私たちが従う理由などありませんので「在庫一括の注文書は出さない。しかし、必要都度の注文は出すので供給責任は果たすこと」と最後まで一貫して対処しました。

窓口となった営業課長は社内の上からの指示と板挟みになって、そうとう大変そうでしたが、仕方ありません。

新しい業界や業種に参入する判断をし、それが不調で撤退することとなった場合は相応の痛みを伴うことを覚悟する必要があり、その覚悟がないなら参入する資格はありません。

ちなみに、1年後にその営業課長の部下2名の方からその会社を退社した、との挨拶がありました。

 

廃棄物の引取りを抱き合わせた提案は検討せざるを得ない

調達業務は「発注すること」と思われてますが

工場で発生する各種廃棄物の処理は、その最終処分を確認するマニフェストの管理・取得まで必要なため、規模の大きな工場では調達部門とは別部門が対応していることが多いかもしれません。

法令遵守という中ではそれで十分と思いますが「会社を強くする」という観点から、私自身は無関心でいることができません。むしろ「廃棄物の低減・活用」という切り口を加えると、調達という業務範囲の考え方や選択肢が大きく広がる気がします。

特別なことがなくとも、こうした産廃処理業の取引先様に関する企業情報の入手や、廃棄物の運搬・処分費用の価格決着など調達部門として関与することができますので、そうした折には「廃棄物総量削減」の取り組み内容や「お困りごと」をヒヤリングするようにしています。

「廃棄物の総量削減」は、工場全体の共通課題

一般に営業マンがSCMを語る時には、製品を売って納品するところまでで、その後にその製品や梱包材料がどのように処理されるのか、まで語られることはありませんが、納入した製品に関わる廃棄物の引取りまで包含したビジネスモデルにもとずく取引の提案を受けた時は、検討せざるを得ません。

これが「引取りと処理の費用は弊社で負担します」程度の内容であれば、単なる値引きと同じですから、あくまで引取ったものは有価物として何らかの形で利用や消費をすることが前提の話です。

私たちの周りで一般的なのは、複合機のトナーカートリッジの回収などがありますね。

この中で、今の仕事に就いて一番驚いたのが、工場で使用する安全靴について、ある大手メーカーが一定規模以上の工場には専用の廃棄BOXを設置して定期的に回収する、というものでした。

メーカーの担当者に話を聞いたところ、このビジネスモデルは狙って構築したものではなく、お客様からの要望を受け検討したところ、安全靴は金属を含め多種の材料が使用されているため、お客様では廃棄物として処理するしかないが、自社であれば具体的にどの部位にどんな材料を使用しているかを熟知しているため、大量に回収し材料ごとに分別することで有価物として処理することができる、とのことでした。

なんと、極端に言えば、靴を買うのに「履き心地で選ばない」のです。

これでは、よほどのことがない限り他社品は検討できません。
ですから、売り込みに来た営業マンには、こうした廃棄物の引取りまで視野に入れた提案を模索するよう焚き付けています。

廃プラ活用品の目印は「黒色」

理想は、自社の工場からの廃棄物を全て有価物として処理する、ことです。
しかし、なかなかそうは行きません。
回収運搬や分別するコストをかけても元が取れる「用途」がないのです。

例えば、廃棄プラスチックの再利用品で良く目にするのは、
ポリエチレンならホームセンターで植栽の苗に使用されている、黒い樹脂製のポット。
ポリプロピレンであれば、黒い樹脂パレット。
などがあり、共通するのは色が黒ということ(ちなみに「黒いガンダム」もそうではないかと思っています)ですが、原油・ナフサの時々の価格でメリットが大きかったり、場合によっては逆ザヤになってしまったり、なかなか大変なこともあります。

逆に、私の知っている用途はこれくらいで、時を経てもあまり広がっていない印象です。

自社内で使用する用途を考える

自社の工場から、どんなものがどれだけ廃棄されているかは調べればスグにわかります。
それを、世間一般向けではなく、自社独自で利用できる用途を考え、チャレンジすることはなかなか楽しいことです。

産廃の総量削減」というスローガンに対して、具体的に「このアイテムを〇〇で代替えする」という提案や検討に調達部門が関与することで積極的な推進ができるのではないかと思っています。

 

 

調達の業務課題には様々な対応があり、何が正解ということはありません。

その中で、このブログが対応策の検討やセカンドオピニオンとして少しでもお役に立てれば幸いです。

また、営業職の方々にとっても調達担当者の考え方を理解することで取引先との良好な関係を築くための参考となれば幸いです。