調達魂

~日々奮闘する資材調達・購買バイヤーに贈る言葉~

材料廃番の申し入れと「4M変更申請書」

選択と集中」の風潮の中で

取引先様から、生産・在庫の効率向上を目的として製品の統廃合の申し入れを受けることが多いですね。

この申し入れは、窓口の営業担当者から、まず口頭で説明(打診)を受けることもありますが、いきなり書面で提示されることもあります。

何しろ、自社でもお客様に対して同じように品番の統廃合の依頼をしているくらいですから、ケシカランとか頭から取り合わない、という訳にはいきません。

こうした申し入れには調達担当者個人として「それは通るかな~同じ品番を使用している他社の状況は?」などと取りあえずコメントしますが、それでは取引先様社内に対し説得力が十分ではありませんから、基本はまず社内関係者と情報共有した上で、改めて自社と対象製品のお客様の状況を連絡・説明します。

しかし実際は、よほど特殊な材料で代替品がなく、用途が社会的に必要なものであれば「供給責任」を前面に出して、廃番そのものの撤回を働きかけますが、ほとんどの場合は使用材料の切替え検討に入ります。

この段階では申し入れの背景・理由によっては、検討に着手する・しない、の判断に時間を浪費してしまうと後々供給不安に繋がるリスクもありますので。

「4M変更申請」よくある理由

調達業務に携わる方であれば「4M変更申請書」は知ってはいるが、見たくはない、という方が多いと思います。

品質仕様書を定めた既存材料を対象にMan(人)Machine(製造装置)Material(材料)Method(製法)の4つの内で何か変更する場合の事前申請書類で、各変更要素のアルファベットの4つの頭文字「M」から来ているものですね。

標題は「選択と集中」という風潮の中で、としましたが、実際の申請理由はもっと多彩で例えば

  1. 製造装置の老朽化が激しいため、不測の長期故障に備え新鋭機に入れ替える。
  2. ベテラン作業者の退職や人手不足により自動化など効率化を図る。
  3. 使用原材料が入手困難となったため、安定入手できる他原材料へ切り替えたい。
  4. そして、冒頭の生産・在庫の効率向上を目的に製品の統廃合を図る。

 このように、対象材料の今後の安定調達に大きな不安がある場合も少なくありません。

切替え完了までに必要な現行品の在庫量

一般に、対象材料の切替え検討では自社内の特性・品質の検討・確認を経て、それを対象製品のお客様に提出して良否の判定と変更のご承諾を得る必要があります。

この検討は、変更申請した取引先様の状況が、既存の設備や体制を残したまま切替え検討をするランニングチェンジの場合は、粛々と進める、こととなります。

一方、申請時の取引先様の計画が、例えば「6か月後の〇年〇月で製造装置を解体し跡地に新鋭機の設置を開始する」などという場合は、取引先様の営業担当者から「製造装置の停止までに現行品の在庫をどれくらい準備すればよいでしょうか?」というような問合せを受けます。

「そんなの知るか!」とは言いません。

回答は、製造を通じて自社の営業部門とも協議しますが、私の経験では「在庫2年分」が相場かな、と思っています。

このような申請は、取引先様都合によるもので、積み上げた在庫について最終的に引取り義務は一切負わないことを前提としていますから「そんなにたくさんですか」と言われてしまうことがあります。

しかし、こうした検討は、順調に行ったとしてもかなり時間がかかります。

私たちの製品のお客様のご承諾まで考慮すると1年などアっという間に過ぎます。

自動車などに比べ、電気製品は確かに新製品が次々に発売されているかもしれませんが、各製品にはそれまで使用してきた部材の特性・品質を前提として設計されており、また補修用の部材も必要ですので簡単ではありません。

 

以前、印刷を本業とするある大手メーカー様が直接私たちの製品のお客様に部材のPRをしたところ、めでたく採用されたので私たちの会社にその部材を組み込んでそのお客様に製品販売をしてほしい、いうことがあり、製品は流れはじめました。

いわゆる「スペックインできたので、これを使ってください」というパターンです。

ところが、約2年後に「事業の採算見通しが立たないので、この製品は撤退する」との方針が打ち出されました。

発端はこの取引先様が独自でスペックインした訳ですから私たちのお客様には独自に説明してご承諾を得ることはもちろんですが、その上で、まだ対象の製品は流れていましたので、撤退に当たり2年分以上の在庫積み増しを要求しました。

ところが、印刷が本業であるためか社内のISOの規定で「正式注文がなければ製造対応できない」と言い出したのです。

国の法律であれば従いますが、私企業が勝手に定めた社内規定に私たちが従う理由などありませんので「在庫一括の注文書は出さない。しかし、必要都度の注文は出すので供給責任は果たすこと」と最後まで一貫して対処しました。

窓口となった営業課長は社内の上からの指示と板挟みになって、そうとう大変そうでしたが、仕方ありません。

新しい業界や業種に参入する判断をし、それが不調で撤退することとなった場合は相応の痛みを伴うことを覚悟する必要があり、その覚悟がないなら参入する資格はありません。

ちなみに、1年後にその営業課長の部下2名の方からその会社を退社した、との挨拶がありました。

 

調達の業務課題には様々な対応があり、何が正解ということはありません。

その中で、このブログが対応策の検討やセカンドオピニオンとして少しでもお役に立てれば幸いです。

また、営業職の方々にとっても調達担当者の考え方を理解することで取引先との良好な関係を築くための参考となれば幸いです。