調達魂

~日々奮闘する資材調達・購買バイヤーに贈る言葉~

「購入品質仕様書」制定に向けて

画期的な新製品を開発しました!と言ってスグに製品を販売できる訳はありませんよね。

同じ製品でも繰り返し製造すると特性や機能など品質に必ずバラツキが出ます。
そして、お客様からお金をいただくのであれば、そのバラツキがどこまでOKで、どこからがNGかをキチンと線引きをする必要があります。

そのOK・NG判断の線引きは販売するお客様が一般の消費者であれば各種法令を踏まえた上で自社で決定する必要がありますが、何かの最終製品に組み込まれる部品や部材であれば、そのお客様との間で「納入品質仕様書」を締結します。

この「納入品質仕様書」の締結に向けて自社製品の製造に使用する材料については個々に私たちの会社と取引先様の間で「購入品質仕様書」を締結します。

 製品開発のゴールは、それまでの試作品という位置づけではなく、この仕様書にもとずく製品をお客様に納め、その対価としてお金をいただくこと、とも言えます。

 難しい規格値の上限値と下限値の見極め

研究開発の段階では「できた!」の次は「再現できた!」となり、それ以降は歩留り向上への闘いとなっていきます。

しかし、もうこの歩留りを議論する瞬間には何を持って合格とするかの判断基準を持っておく必要がある訳です。

ですから、取引先様から提供いただく材料についても再現できた次のLotからは品質水準が同一のものばかりでなく、ある程度振れ幅のあるものを使用して製品特性がどのようになるかをあらかじめ確認しておきたいものですが、実際はこれがなかなか難しい。

対象材料を製造する取引先様であれば、生産実績から仕様書の規格値の上限・下限を提案いただくことはできますが、その提案の可否を判断するには実際にその値の材料を使用した試作品の評価をしたいところです。

しかし、そもそもそんな上限値や下限値の材料を狙って製造できるなら品質のバラツキはもっと狭いはずですものね。

という訳で、実際には少量試作から量産試作に至るまで試作の回数を重ねる中で、各種の異なる生産Lotの材料を使用する中で評価データーを積み重ねて行くこととなります。

実際には仕様書制定をゴールとした時に徒に試作の回数を増やしてもスピード感に欠けますし、結局はどこかで「腹をくくる」必要がありますので、私たちの会社では
「対象材料を最低3Lot分自社の製品に組み込み試作評価し、いずれも合格であれば3Lotの標準偏差σを計算し、その3倍(=3σ)の値をそれぞれ上限及び下限とする」
という運用をしています。

開発の初期段階から材料特性と製品特性データーの蓄積を

それでも「さあ仕様書制定に向け規格を検討しよう」という段階になってもこうした目的でのデーターの準備が不十分で、わざわざその目的のために試作を実施する、などといういわゆる手戻りが発生してしまうことがあります。

調達担当者としてはこうした製品化の道筋をキチンと理解して社内の開発部門や取引先様にムダな行為が発生しないよう、気配り・目配りをしたいものです。

安定供給に大きなリスクはないか

そういえば、私が引き継いだある樹脂製の粒子で、私たちの会社向けの専用材料ではないのですが、メーカー様の標準仕様では粒径の規格値が±10%に対し私たちの会社が締結した購入仕様書では+10%、-0%という規格の材料がありました。

この背景は粒径がマイナス目のLotを使用して私たちの製品を作ると、その製品の規格値を満たさない、または歩留りを大きく落としてしまう、というものでした。

この規格値に対しメーカー様は狙って作れる訳ではなく、この材料に関して他のお客様が何社もある中で私たちの会社は「粒径がプラス目のものだけが使用できる」つまり「粒径がプラス目のものだけを購入する」がというものでした。

極端に言うと私たちの会社で使用できる規格の材料が製造できる確率は50%ということです。

確率50%ということはバクチで言えば「丁」か「半」かということですね。

私たちが「丁」を待っているのに直近のLotが「半」だったとすると、次は「丁」が出るのでしょうか?

「丁」の次は必ず「半」が出るならバクチではありませんね。
1回前の出目があ何であれ、次の目は常に確率50%ですので、「半」が連続10回出ることもあり得るのです。

ですから、内示をして確保する在庫はいくらあっても安心などできませんでした。

しかし、無限に材料を確保する訳には行きませんので、実務上は3Lot分(=半年分)を目安に材料確保しました。

それでも、一時「在庫はあと1Lot分しかない」ところまで追い詰められた時はさすがにドキドキしました。

 

ユニークな特性・機能を持つ新製品を開発することは大切なことです。

しかし、製品化した瞬間から「供給責任」が発生します。
ですから、入手に不安のある材料を使用するのは避けるよう調達部門として開発段階から警告、場合によってはダメ出しをするくらいの気概を持ちましょう。

 

 

調達の業務課題には様々な対応があり、何が正解ということはありません。

その中で、このブログが対応策の検討やセカンドオピニオンとして少しでもお役に立てれば幸いです。

また、営業職の方々にとっても調達担当者の考え方を理解することで取引先との良好な関係を築くための参考となれば幸いです。