調達魂

~日々奮闘する資材調達・購買バイヤーに贈る言葉~

取引先様の窓口営業担当者を大切にしましょう

取引先様は私たちの会社の情報をどのように入手しているのでしょうか?

やはり、それは自社の取引先様に対する第一窓口である調達担当者から取引先様の営業担当者を通じた情報が一番の基本となるでしょう。

これは「何をした」「何を言った」という事実に加えて、それがどんなニュアンス・雰囲気であったか、ということと併せるとイメージが随分と変わってしまいます。

例えば、営業担当者が会社に戻り「今日〇〇の話がありました。」という報告に併せて
「それほど強い口調ではありませんでしたが・・・」
とか
「かなり本気みたいでしたが・・・」
とか
こうした雰囲気を添えることで取引先様の持つイメージはだいぶ変わってしまいますね。

常に取引先様の社長様に語りかけるつもりで

私は営業担当者には自社の状況をニュアンスも含めて持ち帰って説明してほしいと考えているため、ボイスレコーダーに録音して社長様はじめ皆様に聞いてほしいくらい、などとよく話をしています。

それでもやはりこうしたニュアンスなどはうまく伝わらないもので、メーカー様との直接取引あればまだ良いですが、商社様を間に挟んだ取引であれば「微妙なニュアンス」などは止めにして、できるだけシンプルに話をするようにしています。

一方、スタンドプレーする営業担当者は困る

それでも以前、ある大手総合商社の若手の担当者はニュアンスどころか勝手に話の趣旨を変えてメーカー様に説明していまい困ったことがありました。

どうやらある課題に対して私たちの会社とメーカー様の考えに隔たりがあったため、この溝を埋める調整をしたかったようですが、そんな小手先のことでは両社ともに会社として納得できるはずはありません。

特定の課題に折り合うには課題が何であるのかを両社で整理・確認をした上で、はじめて落としどころを探ることができるのに、この時は課題の整理・確認をしている段階で自分で勝手に私とは違う線引きで課題の整理しようとしたようです。

この営業担当者は、ほかにも数回同様なことがあったため取引先様の上司に話をして担当者を変更してもらいました。

取引先様の幹部の前では営業担当者を褒める

しかし、私にとっての困った営業担当者というのは非常に稀です。
なにしろ「ボイスレコーダーに録音したように報告をお願い」している訳であって、営業担当者に「そこのところはうまく言っといて」などと期待してませんので。

それでも、どちらの営業担当の方も私たちの会社の状況についてキチンと説明していただいているようで社長様や幹部の方の来訪面談では噛み合う会話ができています。

そして、こうした幹部面談では、とにかく営業担当者を褒めるようにしています。
「先日の〇〇は本当に助かりました。ああいう細かいことこそ弊社にはとても大事なことですので。」
とか、特に取引先様にとって儲けにならないことへの対応はキチンと感謝して取引先様の社内で「何やってんだアイツは」と言われないように少しでも援護射撃しておきます。

 

世間では「あの会社はTVコマーシャルではカッコイイが、実際には・・・」などという評判を聞くことがあります。
しかし、そんな後ろ向きな姿勢ではなく、取引先様に少しでもより良いイメージを持っていただき「あの会社となら」と思ってもらうには、まず営業の窓口担当者と日頃から良い関係を作り、取引先様の社内に良いイメージを持ってもらうことです。

そして、それは今だけでなく、その営業担当者が私たちの会社との取引成績がキッカケで出世して社長とか幹部になれば、将来私たちの会社が危機に瀕した時に救いの手を差し伸べてくれるかもしれないのですから。

 

リーマンショックと過剰在庫

業態や会社によって「適正在庫量」は様々で、カンバン方式での場合の在庫は本日の生産分+αくらいかもしれませんね。

しかし、そんな場合でもそうした体制を支えるために部品メーカーや材料メーカーは不測の事態に備えて在庫を抱えており、これがサプライチェーンと呼ばれます。

自動車メーカーでは予め立てた生産計画が粛々と実行されようですが、それ以外の一般のモノ作りの会社では製品が最終製品に近ければ近いほど、より売れ筋の商品を市場に供給するために計画がコロコロ変更されます。

その結果、足元の需要量に対して注文が上振れする場合に備えて、在庫はかなり多い目に準備しています。

私たちの会社では、手配納期が1カ月の材料であれば、注文の増加リスクに備えて在庫は2カ月分持つことを目安にしています。
つまり、前月の私たちの会社からの発注実績量を踏まえてメーカー様には当月の生産量を決定してもらいますが、常に2か月分の在庫は確保している状態です。

そして、この状態は「適正」とは呼ばずに「標準在庫量」呼びます。
つまり、その時々の需要のトレンドに応じて、この標準量に対して「多い目」「少な目」という調整をして適正な在庫量に調整します。

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2008年の 「リーマンショック」の時には

 「需要が蒸発した」と言われ、世界中でモノが動かなくなってしまいました。

それでも、製造部門の稼働率はゼロか、というとそんなことはなく、液晶の関連であれば車載用途のカーナビ用の製品は動いていました。
これは、自動車メーカーの生産計画には急な変更がないため、日頃から在庫を積み上げていなかったことで、自動車の生産が止まらない限り注文が継続したと考えています。

その他、食料品など日常の生活をする上で必需品は動いていたと思いますが、それ以外は世界中で様子を見るため買い控えが起こっていたようです。

私たちの会社でも多くの製品が動かなくなってしまいました。

この時、私たちの会社の営業部門がお客様に売りに走ったのと同様に取引先様の営業担当者からも私たちに対して、何とか在庫を少しでも買い取ってもらえないか、という要望を受けました。

この時は取引先の営業担当者様からは
「直近3カ月のご注文量をベースとすると現在弊社の在庫量は2年~3年分になってしまい、会社から過剰在庫なので何とかしろ、と言われてまして。」
という話でした。

つい数か月前まで実績平均発注量2カ月分を適正在庫量として両社で運用していた同じボリュームの在庫が、発注実績が減って分母が少なくなっただけで評価が数年分の在庫となった訳です。

考え方の背景も理由も十分わかります。
しかし、何と変な話でしょう。内心は吹き出してしまいました。

この時、申し入れをされた取引先の営業担当者様には
「今は例えば、冬山登山をしていて道に迷い、さまよっているうちに夜になってしまったような状況だと思います。暗い中で引き続き道を探すより、今はジタバタせずにこの場所でビバークして夜明けを待ち、少なくとも周辺の景色が見えるようになるまで体力を温存しましょうよ。」
と諭した上で
「多分、この先どうなるか世界中の誰にもわからない。しかし、わからない、で思考停止するのではなく、これからどうなるか自分で仮説をたてましょう。そして、世界の経済がまた動き始めた時に、その仮説がアタリかハズレかを考えましょう。だって、その方が絶対楽しいでしょう?」
と話をしました。おお、偉そう~

「来月も製品の生産量は同じ」であることはない

日常業務をしていると、材料の必要量は先月も今月もそして来月も同じ量で考えてしまいがちです。
しかし、私たちの会社はずっと停滞して変わらないのでしょうか?

そんなことはありませんよね。

にもかかわらず、翌期の予算を策定する時、特に間接材料などは今期と同じ使用量を前提にしていませんか?
翌期は人員が減るのでしょうか?増えるのでしょうか?その背景は何でしょうか?
その上で、使用材料の量はその増減に対し単純な比例計算で良いのでしょうか?

私は、社内の変化を反映する、というより私たちがもっと主体になって変化を引き起こす動きをしたいと考え、いつもその切り口を虎視眈々と狙っています。

 

材料不足、何とかならない~

突発的なトラブルが原因で必要な納期に材料が不足する事態の対応については、以前別の稿で触れました。

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それとは別に私たちの会社の製品が使用されている最終製品がヒットして追加注文が相次いだ場合は、いわゆる「嬉しい悲鳴」を上げることになります。

しかし、これは自社と取引先様の生産能力のキャパシティーの範囲の中で収まる注文量の場合の話で、それを超える注文量になってくると話が変わってきます。

製品のヒットによる材料不足

つまり、時間軸で考えるとトラブル起因の場合は一過性ですが、生産能力を超える注文量に対応するには設備や人員を増強する必要がある場合が多く、その実施には半年や1年という時間がかかり、その間は「モノ不足」の状態が続いてしまいます。

こうした設備や人員増強について取引先様にどうのようにアナウンスして行くかは以前も触れましたが、今回は今週とか来週とか、今をどうするかについてです。

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自社の製品が、多数のお客様から「ひっぱりだこ」になった時

 液晶用の部材は一時期用途に関係なく需要が大きく伸長して「モノ不足」はいろんなところで発生してましたが、この中で特に強く印象に残っているのは携帯TEL用で発生した「モノ不足」に対応する製造部の会議に出席した時のことです。

この時は、取引先様の材料の生産能力には問題がなく、私たちの会社の生産能力が需要に対して不足している状況でした。

製造部門では当然「一つでも多く」という精一杯の体制を取った上で、それでも注文量に対して大幅に不足する完成品をお客様別にどう配分するかを決める会議でした。

この時の製造部長の判断を私なりに理解した内容は

  1. 競合メーカーと複数購買しているお客様よりも私たちの会社の製品を100%採用しているお客様には優先して配分する。
  2. 競合メーカーと複数購買しているお客様の中で、私たちの会社の比率が高かったり、取引をする中での厚意や礼節のあるお客様へは配分を重くする。
  3. 逆に値段だけで簡単に比率をアップダウンしたり、高圧的な態度のお客様に対しては配分はあまり考慮しない。

いかがでしょうか?

当たり前ですが、日頃の取引の有り様がそのまま反映された判断ですね。

困った時ほど日頃の取引の影響が出る

特定の材料が「モノ不足」になった時の対応というのは、日頃の取引の濃淡にかかわらず
まず、調達担当者がお客様を訪問して要望数量の確保をお願いする。
それで獲得できた数量が不十分であれば、更にその内容に応じて自社のそれなりの立場の幹部と同行訪問して協力を要請する、というのがどこでも同じセオリーですね。

取引先様に増量要請で訪問すると、さすがにゼロ回答はなく若干の増量回答というお土産を持たせてくれますが、基本方針は上述した製造部長の判断基準によるものと思います。

つまり、材料不足になった時に日頃の無礼な対応を棚に上げてお願いしても効果はあまりないと思うべきだと考えます。

ですから、何でもかんでも複数購買化をしたり、ちょっとでも安い価格が提示されたから
と言ってA社からB社へ、B社からC社へ、と簡単に発注先を変更することは調達部門の短期的な実績を上げるという近視眼的な行為に見えてしまいます。

最近でこそ良く「戦略的パートナーシップ」という言葉を聞くようになりましたが、自社の製品の市場シェアを本当に拡大したいと思うなら取引先様との信頼関係の構築は細心の注意を持って意図的に行う必要があります。

そして、そうした信頼関係というのは1年や2年という短い時間で簡単に築けるものではないのです。

 

装置の見積評価、その考え方

建物や装置を発注するためには一般的に価格折衝を行います。

この折衝では何の準備もせずに「最大限の価格のご協力をお願いします。」と言った上で取引先様から提示された金額が、例えば▲50%値引きだったとしましょう。

これに対し、私たちは
「おお、なんと半額。では、この金額でお願いします。」とはしません。
何故なら、実売価格が半額以下はザラにあり、最大限かどうかが不明だからです。

そこで、価格折衝に臨む前に対象の見積書の内容をチェックして
「落としどころは、うまく行けばこれくらい、逆に不調でも最悪これくらい」
と見当をつけ、社内の第三者に決着金額を説明する判断根拠を考えます。

調達部門が行うこの作業を「見積評価」とか「見積査定」とか「見積検討」とか呼びますが、ここでは便宜上「見積評価」と呼ぶことにします。

そして、この稿は「装置導入に関する見積評価」についてですが、一口に「装置導入」と言っても、色んな区分けや切り口がありますね。

ここでは理化学機器と製造用設備の2つに分けて書いていきたいと思います。

 まずは理化学機器。
例えば、電子顕微鏡のようなカタログ化されている製品は、その開発費を多台数販売することで回収し、回収後は利益や次機種の開発費用の原資となりますが、見積書の記載は「本体一式金額+オプション一式金額=合計金額」という形式で、構成部品やユニットの金額内訳は一般に提示されません。

これに対して製造用設備の場合は、対象の取引先様のそれまでの技術を活用していますが基本的には1台だけの特殊仕様装置のため、その1台でキッチリ利益を上げる必要があるものです。

つまり、どんな装置によって見積評価の考え方はまるで異なる訳です。

理化学機器の場合

まず、検討の最初の段階で見積をどこから取得するかが大きなポイントです。

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電子顕微鏡や液体クロマトグラフなど理化学機器の見積書の金額記載は「本体一式金額」の1行のみ、ということがよくありますが、せめてハードとソフトに分けた金額の提示を依頼します。

理化学機器の場合、オプション品も含めて広義で全てカタログ品です。

こうした製品は例えば当該のユニットの開発費用が1億円かかったとして定価を1千万円で設定したとすると、この投資は10セットの販売で回収し、その後は利益となります。

つまりこの例では
ソフト部分の費用は、11セット目からはまるまる儲け
で次の開発費用の原資になる一方ハード部分の費用は、材料費用・加工費用がかかりますので全て儲けにはなりませんが、少なくとも開発・設計費用は必要なくなります

ですから、見積評価に当たって私は必ず
この装置・オプションは上市後何年経過してますか?」と確認・問合せをします。

この回答が
3カ月前に上市した新製品」であれば価格協力はだいぶキビシイと考えます。
一方
上市して3年になります」であれば「もう元は取れてるでしょう」と考え、
ソフトウェア費用は▲50%以上、場合によっては▲80%程度の減額評価もします。

また、理化学機器は多くの場合で世界の中に競合メーカーが存在するため、それぞれから見積を取得して機能面と価格面の総合評価をしてメーカーを選定しますので、見積金額の比較や従来の取引実績の値引水準などを参考に見積評価をします。

一方、海外メーカー製の場合は必ずその時々の為替レートを確認します。
これは、見積金額が実質時価の時は価格折衝日のレートを確認し、そうでない場合は見積金額はいつの為替レートがベースとなっているかを確認します。

そして、必要に応じて価格決着時点から正式手配までの為替変動リスクを協議した上で、価格決着します。

為替レートを確認するのは、もしかするとそのメーカーの装置を2年後に購入する場合に比較できる情報とするためです。

最後に、試運転に必要な日数と作業工数を確認します。

これも見積書には「試運転調整費一式〇〇¥」と記載されている場合が多いですが、この内容を確認することで、設置場所の準備や実験日程のスケジュール調整や取引先様の人工単価を確認します。

それでも理化学機器の価格折衝は億を超える金額の場合であっても「最大限の協力を」「いやこれが精一杯」「そこをもう少し」などという応酬で終始することが多いですね。

製造用設備の場合

一般に見積書には部品や構成ユニット、設計や組立の費用明細が添付されます。

この費用明細は見積金額が高額になるほど項目の区切りが大雑把になって行きます。
これは見積がいい加減になるのではなく、項目が多くなるためです。

実務で見積評価を価格折衝の席上で生かせるのは100万円~多くて5,000万円くらいまででそれ以上の金額では「この金額は▲10万円で評価」などの話では埒が明かないため、もっと大枠の見地からの価格折衝をすることになります。

100万円~5,000万円レベルの見積評価では

  • 人件費 人工単価×工数
  • 部品・構成ユニットの金額評価
  • 諸経費=利益率・額

主に、この3項目について踏み込んで考察することになります。

人工単価について
メーカー様の社員1人の1日当たりの人件費ですが、これは会社の規模や格によって本当に様々で、私が経験では3万円/日の会社から15万円/日の会社までありました。

これは取引先様で勝手に決めた金額ですが「高過ぎる」と発言するのは問題があると思いますが、その会社の規模と格を考慮して見積評価します。

工数について
これは自社の対象装置の仕様を検討する担当者に意見を聞きます。
すると「これは既存技術を応用するので開発工数はこんなに必要ない」などのコメントがよくあり、ではどれくらいの工数が妥当と思うか?を一緒に見立てます。

部品・構成ユニットの金額評価
まず、見積書の前提となる見積仕様書を見て構成ユニットの中でメーカー名と型式が明確になっているものを探します。
例えば、よくあるケースはコンプレッサーですね。

コンプレッサーのメーカーと型式が記載されている場合は取引がある別の機械工具商社に
「ある装置の導入に伴って見積評価をする中でコンプレッサーの価格確認をしたい。そこで全くのお手数で恐縮ですが、このメーカー・型式の製品について定価と一般ユーザー向けの実売価格を教えていただきたいのですが。」
と依頼します。

これは私のユニークな方法のようで、普通の調達担当者はあたかも買うかのようなフリをして見積依頼するようですが、私は依頼する時に正直に目的を説明してしまいます

どうせ取引様にはお手数をおかけするのですから、その後にフォローを受けた時に苦しいウソはつきたくありませんし、可能性は低いですが対象品について装置メーカー様の商流が長いため高額であった場合には、自社が独自購入して支給するという方法もあります。

この価格確認の結果、例えば
定価12万円、実売価格9万円。一方、見積明細の記載金額が10万円であった場合には「割と誠実な見積金額である」と判断し、部品・構成ユニットの各項目を基本的に同じモノサシで計算しますが、このような場合は1次値引きの金額はそう大きくないでしょう。
(実際の見積金額にはコンプレッサー本体の他に架台や配管部品込みのことも多いため、その内容もヒヤリングをします。)

見積仕様書にメーカーと型式が明記されているものがなかった場合はどうでしょうか。

私は常に、取引先様は誠実な金額を提示している、と性善説で考えていますので、
「調達担当者として提示金額は誠実なものであることを確認したい。」
と説明して、いくつかの部品・構成ユニットのメーカーと型式の開示を求めます。

試運転調整費の内容確認
これは上記の「理化学機器の場合」に書いたように設置場所の準備や試運転日程のスケジュール調整や取引先様の人工単価を確認します。

諸経費率について
一般に装置の見積書の最下段に「諸経費」の記載がありますが、普通これはその装置製作に関する利益で、だいたい総額の5%から10%の間です。

特別な場合を除いてどの会も利益ゼロでは仕事を受けませんから両社で折り合える着地点を見出すことになりますが、一番のポイントは「やってみなければわからない」というリスクの大きさです

カタログ化された理化学機器であれば、装置稼働に関するリスクなどありませんが、独自仕様の装置ではこのリスクの大きさが価格折衝の最大のポイントだと思っています。

そして価格折衝に向けて

国と国との外交では交渉の席上で「隠しカードを切る」ことがあるのかもしれませんが、私は価格交渉の席上でこんな隠しカードを切るようなことはしません。

理由は、価格交渉の席上で何の前触れもなくいきなりややこしいい課題を提示しても中身がある議論はできませんし、場合によっては紛糾して決裂するのがオチでしょう。

ですから私は事前に「今度の価格折衝の論点は〇〇の項目で、弊社の見立てより提示金額はかなり高額に見える。当然金額根拠はあると思うので当日は情報準備をお願いしたい」と伝えておきます。

こうすることで、価格折衝では準備された説明を聞くことで価格に対する私たちの納得感も得られますし、実際の装置の納入を通じてその内容を確認をすることもできます。

 

気が付いたら随分長文になってしまいました。
しかし、キリがありませんのでこれくらいにしておきます。

 

在庫を減らすための最も効果的な方法

BtoCの商売と違って、BtoBの商売は基本的には受注生産ですから、在庫を持つ必要はないのかもしれません。

しかし、世の中には手配納期が3カ月とか、場合によっては6カ月を要するものがあり、こうした材料を使用した製品でもお客様からの注文にできるだけ短納期で対応するために自社で在庫したり、メーカー様や窓口商社様に「内示手配」をするなどの工夫をします。

この中で「内示手配」は私たちの会社で引取り責任を負いますが、逆に自社の専用在庫となってしまいます。
しかし、一般に上市している製品には私たちの会社だけでなく多数のお客様があります。

そこで、メーカー様や商社様はこうした需要に対応するため自腹で在庫を持ちます。

在庫は注文の増加に備えてより多く持ちたい

私たちの会社では、手配納期が1カ月の材料であれば、注文の増加リスクに備えて在庫は2カ月分持つことを目安にしています。
つまり、前月の私たちの会社からの発注実績量を踏まえてメーカー様には当月の生産量を決定してもらいますが、常に2か月分の在庫は確保している状態です。

リーマンショックの時にはこの「在庫〇カ月分」というのがいかに怪しげなものかということをつくづく感じましたが、それはまた別の稿で。

ある時、そんな感じの材料の取引をしているメーカー様の営業部長格の方が若い担当者を連れて来訪され
「当社の製造部門から在庫を少しでも圧縮するために注文の精度をもっと上げてほしい、という要請がありまして・・・」
と話を切り出され
「営業は注文が増加した時のために、在庫は大目に大目に、と言うけれど、現場はコスト削減を必死に取り組んでいるのだからここは営業も協力してほしい、と言われれまして」
と言うことでした。

どう思いますか?

確かに、私たちもコスト削減には必死で取り組んでいます。

「違うでしょう!在庫増大の原因は製造部門でしょう!」というのが私の意見です。

在庫増大の原因は「生産頻度」にある

その時は、部下の居る前で部長の立場を損ねるような事を言ってしまいそうでしたので、若手の担当者に向き直って次のように話をしました。

 例えば、ダンボールメーカーでは、およそ60%が翌日納期ということです。

この場合、製品を生産するための材料や仕掛品は相当量あるかもしれませんが、完成品の在庫はほぼゼロでしょう。

「製品が違う」と言われそうですが、私はこれはこれでいわゆるエクセレントカンパニーの姿の一つだと考えています。

つまり、今日の受注に対し今日または明日作って明日出荷すれば在庫はゼロになります。

確かに、そこまで極端なことはできないかもしれませんが、現状は月に1度の生産頻度の製品だから在庫を2か月分持っているのです。

そこで仮に、月に2度、2週間に1度の生産頻度であれば、需要の振れ幅は短期であればより小さくなるので在庫は半分以下で十分になると思われます。
では、月に3度の生産頻度なら・・

製造現場の生産効率を最も阻害するのは生産品種変更に伴う「段取り替え」でしょう。

ですから、生産効率を追うと1回の段取り替えでできるだけ大量に生産しようとします。その結果、特定の製品の生産頻度が1カ月に1度、中には3カ月や6カ月に一度というものも出てきます。

製造現場のジレンマですね。

しかし、お客様である私たちはハッキリ「生産頻度を上げてほしい」と言い切ります。

これは昨今は需要の振れ幅が大きいということもありますが、要求品質が次第に上がっている中でロットアウトの発生が怖い。

これはメーカー様内の検査で判明したなら即再生産の措置が取られると思いますが、私たちが納入品を使用したところ「何だこれは!」となると本当に大変です。

この面談の最後は若い担当者に向かって
「あなたが弊社の担当者ということは、きっと将来を嘱望されているためだと思います。年月を経てあなたが貴社の幹部やトップになられても生産頻度と在庫量には密接な関係があるのですから多品種少量生産への努力はたゆまず進めてください。」
と言って締めくくりました。

オオ偉そうー、オレは何様じゃ。

 

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品質打合せには積極的に参加しましょう

自動車業界や製薬業界などでは独自の品質マネジメントシステムがあるようですが、それ以外の業界での世界的なシステムとして「I SO9000シリーズ」がありますね。

これは英国人が
「我が社にはお客様に常に安定した品質の製品をお届けする体制ができている」
ことを世界中に説明することを目的に2000年当時に制定されたようです。

「品質の日本」というブランドに対抗するために規格を制定し、それを世界標準に仕立ててしまう、というのは凄いですね。

それはともかく、日本では企業規模にかかわらず多くの企業で「I SO9000シリーズ」の認証を取得しており、私たちの会社も認証を継続しています。

と言っても調達業務を開始した最初は、品質マネジメントシステム、であることは知ってはいてもその具体的な中身は全く知りませんでした。
そこで、品質保証部門に常備されている基準書・手順書を調達に関わる部分を中心に読んだのですが、やはりチンプンカンプンでしたね。

材料起因の品質に関するトラブル対応や改善活動に巻き込まれる

チンプンカンプンの私に対して品質保証部門から「4M変更申請書の提出を取引先様に依頼して」とか「この品質対策書では全く納得できないから出し直しを」とか「今度、訪問品質監査するから段取りよろしく」とか次々に依頼されました。

特に、主要材料でありながらお客様(=市場)の要求品質が上昇している中でそれに追いつけていない材料の取引先様数社とは月に一度「定例品質打合せ」を開催しており、その主催を申し付けられていました。

この「定例品質打合せ」で当初できたのは、社内外の日程調整と打合せ議事録の作成くらいでしたが、今思うと議事録の作成はとても勉強になりました。

議事録を作成するという目的でメモを録っていると、よく議論があっちこっちに飛んで、訳がわからなくなります。
そうした場合は「さっきは〇〇の議論をしてましたが、それってどうなりましたっけ」とあっけらかんと質問してみます。
これに対し「おお、そうだな」と言って元の議論に戻る場合もありますが「それは〇〇ということになった」という説明があると私は調達担当者ですから同席の取引先様に「その理解でOKですか?」と必ず確認をします。

更に、こうした議論では常に5W1Hを両社で明確にするようにしています。

例えば
「改善品のサンプルを〇月〇日に届くようにします」
「ご要望に対する回答は〇月〇日までにメールします」
などという場合は必ず、誰から誰あてかを明確にする、という感じです。

とにかく議事録を作成する上で「あれ?」と思うことは全て確認するようにしています。
私は「暗黙の了解」とか「あうんの呼吸」ということは一切信じてませんので、人を誹謗中傷すること以外は全て言葉に出して確認します。

何しろ、調達部門は自社の取引先様に対する第一窓口として、議事の内容を誤解なく理解して、その後の対応を推進・フォローする責任があるのですから。

業務時間の大半が品質関連業務に

こうして品質保証部門からの次々の依頼や、突発的に発生する品質トラブルの対応に追われる毎日となりました。

これでは調達の本来業務に振り向ける時間が取れません。

ん?

調達の本来業務?

確かに品質関連業務に追われる毎日かもしれませんが、こうした対応を通じて

  • 品質保証部門はお客様から何を要求され、どう対応しようとしているのか。
  • 製造部門はモノ作りをどのように考え、取り組んでいるのか。
  • 取引先様もモノ作りをどのように考え、取り組んでいるのか。

いつの間にか、こうしたことが当たり前のように理解できていました。

ここまで来ると、社内の他部門と協調してできることが拡大します。

例えば

  • 取引先様と価格折衝も含めた幹部面談で、より地に足のついた話ができる。
  • 特定の取引先様が自社の取引先としてふさわしいかどうか社内議論できる。

こうしたことに自信を持って取り組むことができるようになります。

「ISO9000シリーズ」の基準・手順は企業によって様々

一方、こうした品質関連業務の中で品質問題を継続して起こした取引先様に対し訪問品質監査を行うことがあります。

これを受け入れる取引先様の対応も様々です。

一般に、こうした監査は取引先様の「懐を探られる」ことですので歓迎はされませんが、中には、暴走しがちな製造部門に何らかの歯止めをかけたい品質保証部門から「黒船」的な役割を期待される場合もあります。

 それはともかく、訪問監査で取引先様の基準書・手順書を読ませていただくと、自社の内容と大きく異なることに驚きます。

そうした場合は、認証機関から認証されている訳ですから「おかしい」とは当然言わずに「弊社はこの部分はこうなのですが」と説明し、どのような考え方からそのような基準・手順となったかを理解するようにします。

つまり、これも取引先様理解の一環なのです。
いや~、勉強 勉強

 

取引先の商社は価値のある仕事をしていますか?

調達業務では、メーカー様と直接の取引もありますが、商社様を通じて購入している材料や装置も多数あると思います。

それらの商社様はメーカーからの仕入れ金額に自社のマージンを上乗せした金額で私たちの会社から受注していますが、マージン分の仕事をしているでしょうか?

材料の場合、モノのデリバリーは私たちから見えてない部分でなかなか大変なことがあるかもしれませんが、もし伝票を通してるだけなら早く直接取引に切り替えたいですね。

「伝票を通してるだけ」という場合は、漏れなく何らかのシガラミがあると思いますが、何らかの機会に思い切って商流の変更を打ち出しましょう。
「コロナ禍がキッカケで業務をゼロベースで見直す方針が出たので」という理由でも十分かもしれません。

商社経由の取引からメーカー直接取引に変更するには

発注品の納期管理も不十分で、私たちの会社の状況もメーカー様にキチンと説明できていないような窓口商社の場合は、担当者に「貴社はマージンを取るような仕事はできていない」と言うと「そんなことはありません」とか「今後は、より一層がんばります」とかのコメントをくれます。

その後、何か問題が発生する都度こちらから同じことを繰り返し発言し、上長同席の面談などでもメーカー様と直接取引したい意向を匂わせておきます

何しろ、発注品の納期フォローや、私たちの会社の状況をメーカー様にキチンと説明する仕事は私たち調達部門が十分できるので、窓口商社など不要なのです。

一方、並行して商流についてメーカー様の意向を確認しておく必要があります。

私たちの会社から見ると、メーカー様との取引は窓口商社を通じた一本の線に見えます。

しかし、メーカー様は広い市場という海原に商社のネットワークという網を打っており、そのため対象の商社様の存在が大きく、私たちの会社1社の要望を聞くことは厳しいかもしれません。

ただ、こうした場合でも私たちが「この商社は不要」と判断したくらいですから、時代の流れの中で過去は存在感があっても、現在は見直す必要を感じている可能性は十分あると思います。

商流変更は慎重に外堀を埋めてからメーカーと直接取引することを宣言し、実行します。

このように、昔ながらのビジネススタイルのままの商社は、私たちから見ると現在は大量生産品の小口配送くらいしかマージンの源泉はないように思えます。

ですから、そうならないために様々な努力や工夫をされている訳です。
私が、以前から読んでいるコラムの中で

小山昇氏の「こころ豊かで安全な経営とは何か」
https://business.nikkei.com/atcl/opinion/16/122700035/

この中には、同じメーカーの製品を売るために他社とどう差別化を図りお客様から選んでいただくか、が豊富な事例と共に書かれています。

例えば、よくあるPRで
「困った時には何でもご相談ください。必ずお役に立ちます」
と言うような特色も工夫もない商社様には用はありません。

これに対し、価値あるサービスの提供が期待できる商社様なら
「〇〇のことなら国内外で経験・実績が豊富ですので、一度投げ掛けてみてください」
このように特長を具体的に示されれば、こちらもメモしておくのですが・・

装置メーカーの代理店はもっと存在感が薄い時代に

広義で機械商社の場合、昔はカタログをカバンいっぱい詰めて「この機械はどうですか?この装置はどうですか?」と言ってお客様を訪問していました。

しかし、今はネットの時代です。
カタログならダウンロードできますし、問合せならメーカーのホームページを通じて直接コンタクトできます。

確かに、ある目的で装置を導入する場合、複数のメーカーを検討するのに商社の担当者が比較表を作成してサポートしてくれることがあります。

これはマージンを取るなら当然のサービスではありますが、私は自社の担当者に対して、それくらい自分で直接メーカーから情報を取ってまとめるべき、と思っており、そのように指導もしています。

会社には毎日ひたすらルーチンワークしかさせてもらえない方もいる中、新規の設備投資の検討を任されたのですから、このチャンスはしっかり自己の経験にしてほしいのです。

中小の装置メーカー様の場合は少なくとも受注した装置が完成し検収が完了しないとお金が入って来ませんので、こうした機械系の商社様に与信管理的な役割が期待できますが、大手装置メーカー様の場合はもう商社が間に入る理由が私にはよくわかりません。

ですから、どちらの機械系商社様のトップも懸命に自社の価値をどこに求めるか模索されているようです。

私からは、ただ一つ
R&D用の理化学機器は一般的に単能機です。個々の企業の開発テーマはこうした既存の評価・分析機器を使用しますが、開発テーマによって評価項目の組み合せが異なります。

その中で、複合した評価・分析を独自に行いたいというニーズは確実にあり、これはオーダーメイド的なものです。

そこで、商社様は個々の評価機器を自社のネットワークを活用しインテグレートすることで複合した分析・評価ができるシステムを構築するという役割を果たすことができます。

R&D部門には生産技術面のバックアップが薄い場合があり、逆にこの面であれば商社様の力量を発揮していただく余地が十分あると思っています。

ただし、従来の単品商売は「売っておしまい、メンテはメーカー任せ」だったのに対し、こうしたインテグレートの受注では総合保証が当然求められ、リスクが大きくなります。

しかし、商社様との関係であれば、この方が断然面白い。

何しろ、こうした受注であればメーカー様に対する帳合先など関係なく、商社様の提供した価値を十分主張できるのですから。

もちろん、調達担当者として冷徹に見積評価を行った上で、価格折衝の席上では精一杯の価格協力を依頼しますが、折り合える着地点が全く違ったものになるでしょう。

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調達の業務課題には様々な対応があり、何が正解ということはありません。

その中で、このブログが対応策の検討やセカンドオピニオンとして少しでもお役に立てれば幸いです。

また、営業職の方々にとっても調達担当者の考え方を理解することで取引先との良好な関係を築くための参考となれば幸いです。